『パッキパキ北京』
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<書評>『パッキパキ北京』綿矢りさ 著
[レビュアー] 重里徹也(聖徳大特任教授・文芸評論家)
◆中国・首都の「素顔」みる
痛快な小説だった。主舞台は2022年冬から2023年春までの北京。36歳の女性主人公がとにかく元気いっぱいで、コロナ禍もなんのその、欲望のまま、怖いものなしに人生をエンジョイする。そしていつのまにか、私たちに中国の首都の素顔を楽しませてくれる。
元・銀座のホステスの菖蒲(アヤメ)は、仕事のために北京に駐在している20歳年上の夫に会いに行く。ネット販売を駆使するショッピング、高級レストランからデリバリーや庶民の街の食べ物まで楽しむグルメ、派手な服も平気なファッション。物おじしないで異国の生活を謳歌(おうか)する。
菖蒲は高性能の探査機でもある。彼女の目を通して、街の表情が伝わってくる。縦横無尽に走り回る電動自転車、春節の喧騒(けんそう)、女性が強い大学院生カップル。
一方、菖蒲の夫はまじめで勤勉だが、慎重でおとなしい。異文化とかかわるのにも消極的だ。この対照的な夫婦は現代日本の二つのタイプなのだろうか。
こちらまで積極果敢になってしまう一冊。しきりに海外旅行をしたくなった。
(集英社・1595円)
1984年生まれ。2012年、『かわいそうだね?』で大江健三郎賞。
◆もう1冊
『生(き)のみ生(き)のままで』(上)(下)綿矢りさ著(集英社文庫)。2020年の島清恋愛文学賞受賞作。