『照子と瑠衣』
書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます
『パッキパキ北京』
書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます
『照子と瑠衣』井上荒野著/『パッキパキ北京』綿矢りさ著
[レビュアー] 池澤春菜(声優・作家・書評家)
女性の閉塞感破る2作
わたしの生まれた側は、生き物として、それから文化・文明を持ち社会を作る人間という存在として、やや生きづらい方らしい。SNSを見れば可視化されたその生きづらさが、さらに降り注ぐ。根雪のように、足下にじっとりとまとわりつき、動きを妨げる〈女性に生まれたこと〉。でも同じように、この雪に足を取られ、でも前に進もうとしている人たちも見えるようになってきた。
そして言葉が生まれた。
シスターフッド、紐帯(ちゅうたい)、連帯、エンカレッジメント、フェミニズム、ジェンダー。言葉は物語となり、わたしたちと共に立ってくれる。
七十歳の二人の、爽快で痛快な明日への逃避行『照子と瑠衣』。当たり前のように妻を使役し省みない夫との生活から飛び出した照子、そして老人マンションの閉塞(へいそく)感に疲れ果てた瑠衣。二人はシルバーのBMWを駆り、長野の山奥へと向かう。二人だけの奇妙な、そして自由で気ままな生活。いつか終わる旅の果てに二人が見いだした答えに背中を押される。
『パッキパキ北京』の主人公の菖蒲(アヤメ)は、夫の駐在先、北京に乗り込む(移住するとか、滞在する、より断然この言葉)。貪欲で前向き、アグレッシブ&ポジティブな三〇代元ホステスの菖蒲が北京の混沌(こんとん)とした社会をぐいぐい渡っていく。よく食べよく遊びよく買い物をし、生きることに真っ直(す)ぐ飛び込んでいく菖蒲は、勢いがあって新しくて古くてデタラメで破天荒で猥雑(わいざつ)で欲とエネルギーに満ちた北京によく似合う。だけど全てに牙をむくわがまま放題の愛犬ペイペイがお手伝いさんに手懐(てなず)けられて大人(おとな)しくなった頃、菖蒲も夫から選択を突きつけられ……当たり前をぶち壊す、最高にピカレスクでビルドゥングスなノンストップチャイナ小説。
雪なんて蒸発させちゃえ!とばかりに熱くかっ飛ばす二冊の小説、最近下向きがちな全ての性別年齢立場の人にお勧めです。(祥伝社、1760円/集英社、1595円)