必殺シリーズの現代版 民事賠償金を踏み倒す悪党を懲らしめる中年判事を描いた小説

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東京ゼロ地裁 執行 1

『東京ゼロ地裁 執行 1』

著者
小倉日向 [著]
出版社
双葉社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784575526912
発売日
2023/09/13
価格
770円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

民事賠償金を踏み倒す悪党に極刑を! 金も命も強制執行する影の裁判所シリーズ、開廷!!『東京ゼロ地裁 執行 1』

[レビュアー] 細谷正充(文芸評論家)

表の顔は地味な中年判事。だが、その正体は闇組織「東京ゼロ地裁」3代目裁判長・山代忠雄。いじめの主犯格や極悪レイプ魔など、許せぬ民事賠償金未払い人に100万倍返しで鉄槌を下す話題の新シリーズの魅力を、書評家・細谷正充がタップリご紹介!!

***

■刑事事件の被害者側が民事裁判で勝ち取った賠償金を、払わぬ悪党たちがいる。影の執行裁判所“東京ゼロ地裁”の出番だ。小倉日向の、痛快シリーズ第1弾。

 名は体を表すという言葉があるが、小倉日向の場合は当てはまらないだろう。『極刑』『いっそこの手で殺せたら』と、ハードな展開で人間のダークサイドを掘り下げるミステリーを得意としているからだ。まさに日向とは正反対の作風なのである。新シリーズの第1弾となる本書も、もちろんそのような物語だ。

 東京地裁民事部の山代忠雄は、地味な中年判事だ。長女の真菜美はミステリー好きで、民事部の父親を馬鹿にしている。いきおい、自分を慕ってくれる次女の阿由美を可愛がってしまう。それにより真菜美との仲が上手くいかなくなるのだから、どうにも悪循環だ。また、妻の初美の尻に敷かれているようである。

 そんな公私ともに平凡な山代には、東京ゼロ地裁と密かに呼ばれる、影の執行裁判所のリーダーという裏の顔があった。民事訴訟の判決で言い渡された賠償金を払わない悪党から、金や財産を極限まで毟り取り、犯罪被害者や遺族を救済しているのである。他のメンバーは、東京地方裁判所の執行官の谷地修一郎、府中刑務所の刑務官の立花藤太、歌舞伎町で非合法のモグリ医院をしている、国籍不明の美人女医・美鈴の4人だ。彼らは許せぬ悪党に、情け容赦なく立ち向かっていく。

 テレビ時代劇「必殺」シリーズが人気を集めてから、法で裁けぬ悪党たちを闇で仕置きするというパターンの物語が増加した。本書も、その一つといっていいだろう。ただしユニークな点がある。山代たちのターゲットは、民事裁判の賠償金を踏み倒している奴らなのだ。

 第1章は、少女を自殺に追い込んだ、いじめの主犯の女。第2章は、風俗嬢を狙った常習レイプ犯。第3章は、妊婦をレイプしようとして殺した男。どれも胸糞が悪くなるような人物ばかりだ。そんな3人に対して、山代たちは賠償金を払う意思や能力があるのかを確認し、駄目となったときに強硬手段を取る。その方法は、読んでのお楽しみ。悪党たちへの仕置に、読者はスカッとすることだろう。

 その一方で作者は、各ケースを通じて、犯罪被害者や遺族の置かれた、救われない状況を露わにしていく。民事賠償金の踏み倒しは、現実でもよく聞く話。なぜ被害者側の権利が果たされず、加害者側が得をするのか。法の矛盾や限界についても、考えさせられるのである。

 なお、第3章で東京ゼロ地裁は、究極の選択をする。このときの方法は、「必殺」シリーズ風である。「必殺」ファンの一人として、大喜びしてしまった。

小説推理
2023年11月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

双葉社

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