“健康な人”とは友達になってはいけない? 『徒然草』に学ぶ

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新訂 徒然草

『新訂 徒然草』

著者
吉田 兼好 [著]/安良岡 康作 [著]/西尾 実 [著]
出版社
岩波書店
ISBN
9784003011218
価格
1,145円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

“健康な人”とは友達になってはいけない? 『徒然草』に学ぶ

[レビュアー] 渡部昇一(上智大学名誉教授)

「筆とれば物書かる」というのがエッセイの本質だという主旨のことを言ったのは厨川白村であった。「つれづれなるまゝに、日暮し、すずりに向ひて、心にうつりゆくよしなし事を、そこはかとなく書」きつけてみたという「徒然草」は、その書き出しからエッセイの定義になっている。

 普通エッセイの祖は、フランスのモンテーニュ、イギリスではベーコンだとされている。これにくらべると日本の三大エッセイと言われる『枕草子』、『方丈記』、『徒然草』は断然古いのである。この三つのうち一番新しい『徒然草』でさえモンテーニュのエッセイより約二六〇年古く、ベーコンのエッセイより約三〇〇年も古いのだ。それにもかかわらず内容ではヨーロッパのエッセイの祖たちより劣っているとは思えない。むしろより鋭くより面白い話が少くないのだ。

 たとえば「よき友」というのは三種あるという。「一つには物くるゝ友、二つにはくすし、三つには知恵ある友」だと言うが、これを現代的に言えば、「よい職を世話してくれる人、よい医者、よい弁護士・税理士」と言えるのではないか。「友とするに悪(わろ)き者、七つあり」と言うが、これも今でも当てはまると思う。特に「病なく身つよき人」などは要注意である。そんな人とつき合って飲み歩いたら自分の健康を損うこと確実だ。また「高くやんごとなき人」、つまり地位の高く貴い人も「悪い友」に入れられている。思い当る人も多いのではないか。

『徒然草』の特徴は、思わず笑い出したくなるような話も少くないことである。しかも教訓にもなっている。たとえば説教師になろうと志した若者がいた。そのためにはまず馬に乗ることを学んだ。馬で迎えがあった時に落馬しないようにである。そして仏事のあとの酒盛りに、施主の心に叶うようにと歌も上手に歌えるように習った。それで馬や歌は上手になったが説教を習う時間がなくて年をとってしまった。笑うべきか、身につまされるというべきか。

新潮社 週刊新潮
2016年6月23日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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