1月25日、東京神楽坂のキュレーションストアla kaguにて作家の阿刀田高さんと数学者でエッセイストの藤原正彦さんによるトークイベントが行われた。阿刀田さんによる辛口な夏目漱石評が語られ、会場は大いに沸いた。
『漱石を知っていますか』刊行記念トークイベント 藤原正彦×阿刀田高「夏目漱石を作家が読めば」
■いま、なぜ漱石だったのか
イベントは阿刀田さんの「知っていますか」シリーズの最新刊である『漱石を知っていますか』の出版を記念して行われた。阿刀田さんは同書で、『吾輩は猫である』『坊っちゃん』など漱石の主要13作品を取り上げ、徹底解説している。今回なぜ漱石を取り上げたか、その理由について阿刀田さんは「編集部から書けと言われたから」と冗談を交えつつ、古典を若い人にもっと読んでほしかったからだと話した。「(古典作品が)若い人には読みにくくなってきている。松本清張でも難しくなってきているのではないか」と分析し、「漱石の凄さをちゃんと理解してほしい」と若い人でも手に取りやすいように、わかりやすく書いたという。
■漱石は小説が下手だった
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- 漱石を知っていますか
- 価格:1,980円(税込)
ところが阿刀田さんは、「実作者の目から見ると漱石は小説が下手だった」と評する。『漱石を知っていますか』のなかでは『彼岸過迄』や、『行人』『道草』を〈アイデアと筆の乱れとが、ともにかいま見える作品である〉と酷評している。またそれらの作品は「いま新人賞に応募したら下読みの段階でペケですよ」と語り会場の笑いを誘った。
ではなぜ、1世紀を経た今でも読まれ続けているのか。
藤原さんは、「時代の大きな流れに対して皆疑問を持っているが、結果的にはそれに流されてしまってきている」と分析。その上で漱石作品が古びないのは、「時代の流れに対する抵抗や、疑問を作品で表現しているから」と語った。
■漱石の葛藤がみえる
藤原さんは今回のイベントのために、『こころ』を読み直したという。改めて読んでみると「粗が少しずつ見えてきた」と語りながらも、学生時代に初めて読んだときとは違った印象を受けたという。
『こころ』が書かれた大正初期の日本は、文明開化の名のもとに欧米化がすすんでおり、江戸から明治にかけて培われてきた倫理や道徳、文化などが消えかけていた。漱石はそれに対し葛藤があったのではないかと江戸時代生まれの文豪の気持ちを推し量っていた。
ちなみに藤原さんが『こころ』を最初に読んだのは高校生の時で、その理由は吉永小百合が一番好きな本だと言ったからというエピソードも披露した。
予定時間をオーバーするほど白熱したトークに
■漱石が描く男女の緊迫はすべてうまい!
阿刀田さんは今回の連載を通し、漱石作品はほとんど男と女のことを書いていることに気が付いたという。『それから』『行人』『こころ』などで描かれた男女の緊迫したシーンは、「漱石自身はそれほど男女のアフェアがなかったのに」非常に上手く描写されていると笑った。
藤原さんはその点について、「(漱石は)男女の描写を使い近代人の孤独を描いているのではないか」と自説をぶつけた。
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