コラムニストや作詞家、ラジオパーソナリティの肩書きがある、ジェーン・スーさんの新刊『生きるとか死ぬとか父親とか』の刊行を記念したトークイベントが、5月18日神楽坂のla kaguで開催された。
20年前、24歳の時に母を亡くしてから、一時は父と絶縁寸前までいったというジェーン・スーさん。気づけば自身は40歳を過ぎ、父は80歳になろうとしていた。母とは、母以外の顔を知らぬまま別れてしまったことを後悔しているというジェーン・スーさんは、同じ後悔を父に対してはしたくないと、一念発起。毎月の母の墓参りの後に、父の戦争体験や仕事のこと、母との馴れ初めなどを聞くことになったという。
新刊『生きるとか死ぬとか父親とか』では、一時は絶縁寸前だった父と娘が、もう一度、家族をやり直す――その過程が綴られている。
新刊の発売日当日に行われたイベントには、ジェーン・スーさんがパーソナリティを務めている「ジェーン・スー 生活は踊る」(TBSラジオ)のリスナーも多数詰めかけ、和やかな雰囲気でスタートした。
■なぜ、いま父親をテーマにしたか
まずは、なぜいまこのタイミングで父のことを一冊の本にしたか、その動機がジェーン・スーさんの口から語られた。
「20年前に亡くなった母に対する後悔が大きいですね。母が病気になった時、私は社会人1年生で、しかも父も同じタイミングで入院。ふたりの看病で忙しく、ついに母の口からその人生について聞くことができませんでした。その時の後悔が強くあって……。せめて母があと10年生きることができたら、戦争体験や初恋、仕事のこと、父との馴れ初めなど、色々な話を聞けたと思うんです」。
「お母さん、お願いだから、お父さんよりも先に死なないで」という、ジェーン・スーさんの願いもむなしく、24歳の時に母が64歳で逝去。その後、遺された父と娘は、“一家の潤滑油的存在”を失い、その関係性はどんどん悪い方向に……。
「本当にひっちゃかめっちゃかでした。会えばケンカばかり。父と縁を切ろうと本気で思って、『父親 縁を切る』とネット検索したことも」あったそうだ。
しかし、自身も40歳を過ぎたころ、「ふと横を見ると年老いた父親がいる。このままでは父親が死んだときに、(母のときと同様に)ものすごく後悔するぞ」と感じたのが、父親のことを書くきっかけになったと語ったという。
■聞いてないのに話をする母親、聞かないと話さない父親
年老いた両親と、どのようにコミュニケーションをとればいいか、自身の経験を交えて話すジェーン・スーさん。父の人生をヒアリングし始めて驚いたのは、父親のことを全く知らなかったことだったという。
「みなさんも、案外ご両親のことを知らないはずです」と、ジェーン・スーさんが会場に質問を投げかけた。
「この中で、お父さん、お母さんの友人の名前がすっと出る人はいますか?」
来場者の6~7割が手を挙げたが、詳しく聞いてみると、圧倒的に母親の友人の名前ならば知っている、という人が多いよう。これは予想していた答えだったという。
「お母さんはこちらが聞かなくても、身の回りのことや友人の話をしてくれますが、お父さんは聞かないと話さないですよね。私も、父に壮絶な戦争体験があったのを今回初めて知りました。目の前に焼夷弾が落ちてきたり、自分の祖母をリヤカーに置き捨てたり……。そんな話を今までなぜしてくれなかったのかと聞いたら、『聞かれなかったから』の一言でおしまい。なので、みなさんも自分から積極的に聞きに行かないと」。
これには多くの人が首肯して、引き続きジェーン・スーさんの話に耳を傾けていた。
■実家の撤収は大変!
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- 生きるとか死ぬとか父親とか
- 価格:1,540円(税込)
イベント中盤からは、事前に募集した「父や娘に関するお悩み」に、ジェーン・スーさんが答える「相談コーナー」がスタート。その模様は、新潮社のホームページに後日アップされる予定だが、ここではひとつだけ〈親が実家の掃除をさせてくれない〉というお悩みをご紹介。
ジェーン・スーさんは10年近く前に、約30年住んだ実家を手放さなければならず、その“大掃除”を「正直舐めていた」そう。
「(家の中にある物が)いるかいらないかと言えば、全部いらない。ところが、ゴミかゴミじゃないかといえばゴミではない。いらないけど、ゴミじゃないものを捨てるのはものすごく心臓に負担がかかり、体調を崩した」。
ならば、どうするか?――実家に帰る頻度を増やし、少しずつ整理をしてしまうのが最善の方法だと説き、「親に散歩にでも行ってもらう間に、段ボールにカテゴリー別に物をしまっていく。そうしてやって少しずつ、少しずつ」と実用的なアドバイスを授けていた。
その他のお悩みにも答え、会場はラジオの公開生放送のような親密な雰囲気に終始包まれたままイベントは終了した。
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