稲垣吾郎 レギュラー最終回を迎えるも「すごく充実してます、なにより幸せ」[ゴロウ・デラックス]

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TBS「ゴロウ・デラックス」公式サイトより

 稲垣吾郎さん(45)が司会を務める読書バラエティー「ゴロウ・デラックス」(TBS系)が29日、最終回を迎えた。これまで321人の作家や漫画家を迎えてきた番組の最後のゲストはノンフィクション作家でエッセイストの沢木耕太郎さん。沢木さんの逆インタビューに稲垣さんが普段は語らない本音を明かした。

■熱望していた沢木耕太郎が出演

 2011年に始まった「ゴロウ・デラックス」。最終回のゲストは沢木耕太郎さん。番組スタッフや出演者一同が出演を熱望していたというノンフィクションとエッセイの名手だ。最後の課題図書は沢木さんのエッセイ集『銀河を渡る—全エッセイ—』(新潮社)。めったにテレビに出演しない沢木さんは出演を決めた理由について聞かれると、「分の悪い戦いをしている人には加勢をしたくなる」と語り、続けて「しかしそんなに分の悪い戦いでもないんでしょ?」と稲垣さんの内面に迫るような質問でノンフィクション作家の本領を発揮。稲垣さんも「あまり客観的には自分のことはそう見てなくて。すごく充実してますし、なにより幸せですし」と本音を吐露し、どちらがゲストかわからないような沢木さんのペースで番組は始まった。

 沢木さんは稲垣さんの最新映画「半世界」も事前に鑑賞してきており、映画のタイトルが出た直後の稲垣さんの表情が「あの顔はなかなかいい顔してる、大人の顔になってて」と相当な下調べをしてきたと思わせる話を振った。また『銀河を渡る』が沢木さんの代表的なノンフィクション『深夜特急』(新潮社)を書き終えたあとから25年に渡り綴られてきたエッセイであることを明かしながら、「稲垣さんの25年前はどうだった?」「25年間は膨大な時間? 短かった?」と稲垣さんに逆質問し、ノンフィクション作家の顔を見せていた。

■取材相手の心を開かせるには

 同書の中で沢木さんはノンフィクションについての考えや沢木流の取材術を披露。「ノンフィクションを書くに際して、まずなにより大事なのは私という存在である」とし、ジャーナリズムの世界で意味を持つのは「現場に差し向けられる好奇心に、ある『角度』」であり、それこそがノンフィクションの個性になると述べている。また取材相手の心を開かせるため、沢木さんは取材相手を「理解したい」と思うところからはじめるという。そして「正面向かって、あなたのことを理解したいと思うので時間をくれませんか」と伝えるそうだ。「それはその人にとって事件。そんなことは滅多にないから。インタビューは山ほど来るが自分を『理解したい』という人が目の前に現れるということは人生でめったにない」と相手に深く入り込んでゆくための手法を明かし、「本当に理解したいから話を聞きたいという人が来たら、あなたでもひるむと思う。ひるんだ後に心を開き応じてくれれば、圧倒的に深いものになっていく。相手に自分がどれほど深くあなたのことを知りたいと思っていたかを伝えればいい」とノンフィクション作家にとって大切な姿勢について熱弁した。

 同書には沢木さんに心を開いた高倉健さんや美空ひばりさんといった大物たちとの交流についても描かれている。大スターたちのエピソードを披露しながら、話は自然と稲垣さんのSMAP時代についても及んだ。稲垣さんはグループのなかには「独特な緊張感があった」と吐露。沢木さんは「グループは(普通)緩やかな安定感があるだろうと思っているのに、君は緊張感と言ってるよね。その方向性は4方向に行ってるの? それとも誰か1人に?」と追及。稲垣さんは「いや、そのグループにいるってこと自体が、そこにいさせてもらっているというか。大企業に勤めてたという感じで」と答えると沢木さんは「それはあなたの独特の感覚?」とメンバー間の意識の違いを深掘り。稲垣さんは「僕の独特な感覚だと思います。自分の一部だと思ってる人もいただろうし。僕は自分で中間管理職と言ってたんですけど、置かれた立場とか求められるキャラクターとかポジションとかに緊張感があったのかもしれない」と率直に語るも、そこではっと気づいたように「僕がゲストみたいになっちゃった。気持ちよく喋っちゃった」と知らぬ間に心のうちを明かしてしまう沢木流のインタビュー術に舌を巻いていた。

■『深夜特急』秘話

 沢木さんがアジアを横断する旅を描いた『深夜特急』は600万部を突破する大ベストセラー。沢木さんが同作で描かれた旅に出たのは1974年のこと。自分にはインプットが必要だと感じ旅に出たという。しかしその旅を文章としてアウトプットするには旅から戻ってさらに7、8年の時間が必要だったという。それまでは書こうと思っても書けなかったと打ち明ける。そして書き上げたときに「その旅が自分の体の中から消えていった。書かない前この旅はずっとあって、ある種の重さがあった。こうやって整理したことによってすっと体から消えていった。だからどっちがいいかわからない」とインプットされた経験を自分のなかで熟成させることも大切だったと語った。

 稲垣さんも自分も今旅に出ようと思えば出られるはずなのになかなか出られないと話しながら、「『新しい地図』なんて言って持ってるはずなのに。若い頃できなかったことなので」と長い旅への憧れをあらわした。沢木さんは旅で重要なのは「人に聞くということ。旅先でわかってても聞く。場合によってはそこで何かが始まる」と旅先で出会った人の言葉に耳を澄ませることが大切だとアドバイスした。

■稲垣吾郎最後の朗読

 番組最後に稲垣さんはこれまで番組に出演してきた322人のゲストたちが携えてきた本に囲まれ、どの本も「その時の思い出になってる。自分自身が振り返ることもできるし、これは宝の山だなと思います」と万感の思いを込めて最後の朗読に臨んだ。選んだのは『銀河を渡る』のなかから「大好きなフレーズ」という一説。そのなかで沢木さんはまだ読んでいない本より、これまでに読んできた本が大切であると述べながら、トルーマン・カポーティの『犬は吠える』のタイトルが好きだと綴る。

《犬は吠える、がキャラヴァンは進む——アラブの諺。誰でも犬の吠え声は気になる。しかし、キャラヴァンは進むのだ。いや、進まなくてはならないのだ。恐ろしいのは、犬の吠え声ばかり気にしていると、前に進めなくなってしまうことだ。犬は吠える、がキャラヴァンは進む……。》(『銀河を渡る』収録 エッセイ「キャラヴァンは進む」より)

 稲垣さんはこれまで読んできた本に囲まれながら朗読を終え番組はエンディングを迎えた。稲垣さんの最後のコメントはこちら。

「8年間毎週毎週楽しみにしてくださった方がいっぱいいたので、終わってしまうのは少し寂しいんですけど、これほど続けられたことを感謝しています。見て頂いた視聴者の方には心から感謝しています。いつかまたお会いしましょう。さようなら」

 稲垣さんは両手で手を振り、明るい笑顔を見せて番組を締めくくった。

■終了を惜しむ声

「ゴロウ・デラックス」は2011年にスタート。話題のベストセラー作家や普段はバラエティ番組には出ない大御所作家らをゲストに招き、稲垣さんとアシスタントの外山惠理アナウンサーが語り合うという、最近のテレビ番組では類を見ない貴重で真摯な番組だった。出演した作家陣は浅田次郎さん、佐藤愛子さん、宮本輝さん、西村京太郎さん、北方謙三さん、角野栄子さん、吉本ばななさんら錚々たる面々。芥川・直木賞の受賞者が受賞後に揃って出演する企画や、秋本治さん、ちばてつやさん、さいとう・たかをさん、藤子不二雄(A)さん、松本零士さんら大物漫画家の仕事場訪問なども恒例の企画となっていた。

 また文化人では映画監督の大林宣彦さんや新海誠さん、篠山紀信さんや安藤忠雄さん、みうらじゅんさんや磯田道史さん。お笑い芸人ではビートたけしさんや矢部太郎さん、山田ルイ53世さん、落語家の春風亭一之輔さんなど、硬軟取り混ぜた幅広いラインナップで視聴者の興味の幅を広げる良質な番組だった。

 終了を惜しむ声は多く、打ち切り報道に応じて番組に出演したゲストの面々がSNSで落胆の声をあげた。時代劇研究家の春日太一さんはTwitterで、「『ゴロウデラックス』終了の件、本当だとしたら残念でなりません。スタッフさんも出演者のお二人も、あれだけ本に対して熱意をもって接してくださる番組は他にありません。二度も出演させていただいたこと、誇りに思います。出版社と書店が連合で放送枠を買い取ってでも存続させる価値ある番組です。」とつぶやいた。

 同じく出演経験のある映画監督の岩井俊二さんは「『ゴロウ・デラックス』終わってしまうんですか?『たべるのがおそい』の廃刊といい新しい文学のサロンの悲報が相次ぎ悲しい。是非なんらかのカタチで続けて欲しい!」とツイート。

 2月に出演したばかりの詩人の最果タヒさんは「えっ…」とつぶやき、自身が出演したときの丁寧な対応に感動をあらわしながら、「本の著者を紹介するとなると、どうしてもその人の人となりのようなところばかりをフューチャーしてしまうし、ついつい『作品より作者』って感じになってしまうものだけど、この番組はあくまで作品に寄り添って作られていて、その姿勢が現場でも強く感じられて、書き手としてとても嬉しかったです。」と惜しんだ。

 また多くの出版関係者も落胆をあらわし、ライターで書評家の瀧井朝世さんは「ゴロウ・デラックス、今日が最終回… 仕事に関係なく、本好きの一人として本当に好きな番組が…」とつぶやき貴重な映像を「アーカイブ化してほしいな」と述べている。また作家の中森明夫さんも「いつかは出していただけたらいいなあと願っていた素晴らしい番組だった(そう思う物書きは多いはず、私もその日を期してずっと新作小説を書いてました)。」と残念がった。

■テレビで本を紹介は難しい?

 ここ数年、本を紹介するテレビ番組に対する風当たりは厳しい。NHKが20年間続けた「週刊ブックレビュー」は2012年に終了。あとを引き継いだかのように始まった「宮崎美子のすずらん本屋堂」(BS11)も2016年で終了。久米宏さんが書店の店長、壇蜜さんが店員役だった「久米書店 ~ヨクわかる!話題の一冊~」(BS日テレ)も2017年で終了。オードリーの若林正恭さんが司会を務めた「ご本、出しときますね?」も2016年から2017年にかけて13回放送されたが第2期の声は聞こえてこない。

 一方続いているのはピース又吉直樹さんとNEWS加藤シゲアキさん、2人の兼業作家が司会の「タイプライターズ~物書きの世界~」(フジテレビ/BSフジ)、作家で女優の中江有里さんが本を紹介するNHKの「ひるまえほっと」のコーナー「中江有里のブックレビュー」、TBS「王様のブランチ」のブックコーナー。また雨上がり決死隊のトーク番組「アメトーーク!」(テレビ朝日)で行われる「読書芸人」企画で薦められた本は大きな売り上げに繋がることもある。

 また有名Youtuberやインフルエンサーが薦めた本にSNSで注目が集まることもあり、出版業界からは熱視線を浴びている。稲垣さんが「新しい地図」仲間であるYouTuber草なぎさんの番組にゲスト出演し本を紹介という展開もあるかもしれない。

■キャラバンは進む

「ゴロウ・デラックス」は毎週1冊を取り上げ深掘りするため、話は思わぬ方向に広がり、稲垣さんや外山アナが普段は秘めている心情を打ち明けてしまうシーンも多々あった。外山アナの永六輔さんゆずりの毒舌が炸裂するシーンや、稲垣さんがSMAPの解散や元メンバーに対する思いを吐露するシーンも多く、そういった面からも注目を集める番組だった。

 稲垣ファンの間では番組の終了で地上波でのレギュラー番組が失われたことを嘆く声も多い。しかし稲垣さんの最後のメッセージをもう一度受け止めてみよう。沢木さんの言うように、大切なのはこれまでに読んだ本だ。これまでたくさんの作家や本から薫陶を受け、インプットを続けてきた稲垣さんは、受け取ったものを熟成させ外に向かってアウトプットする時期に入っているのではないだろうか。「新しい地図」の曲「雨上がりのステップ」にあるように、見飽きた窮屈な世界から笑いながら飛び出す時期なのだろう。稲垣さんの最後の朗読では“犬の吠え声”――様々な周囲の雑音は気になるが、前に進まなくてはならないと沢木さんの言葉を借りて宣言しているように思える。

「ゴロウ・デラックス」という旅は終わったが、新しい地図を掲げた仲間とのキャラバンは進む。キャラバンは歩むのをやめない。稲垣さんが仲間たちと進む新しい道の行く先をこれからも見届けよう。

Book Bang編集部
2019年3月30日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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