【産経の本】『原爆で死んだ米兵秘史 ヒロシマ被爆捕虜12人の運命』森重昭著

ニュース

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

■地道な調査と慰霊活動の集大成

 2016年に初めて広島を訪れた当時のオバマ米大統領が、被爆者男性の肩を抱く感動的なシーンを覚えている人は多いだろう。

 本書はその男性が書いた。広島で被爆死した米兵の存在を初めて明らかにし、オバマ氏広島訪問のきっかけを作った一冊の文庫化である。

 8歳で被爆した著者は、当時の記憶を検証するうちに被爆死した米兵捕虜の存在に気づいた。捕虜収容所がなかったはずの広島に、なぜ捕虜がいたのか。何人がどんな状況で犠牲になったのか。

 当時、米国は被爆米兵の存在を認めておらず、もちろん遺族にも詳細は知らされていなかった。

 著者は会社勤めの合間に独自の調査を開始する。日米の史料を突き合わせ、証言を集め、捕虜の家族を探し、国際電話やエアメールで問い合わせた。くしくも被爆を免れて生還した元捕虜の協力も得て、犠牲になった捕虜12人をついに特定し、それぞれの遺族に最後の状況を知らせていった。

 オバマ氏が平和記念公園でのスピーチでたたえた著者の三十数年にわたる地道な調査と慰霊活動-。その集大成の本書は、原爆の真実を後世に伝える貴重な碑(いしぶみ)だ。(光人社NF文庫・790円+税)

産経新聞
2019年9月28日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

産経新聞社

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

産経新聞社「産経新聞」のご案内

産経ニュースは産経デジタルが運営する産経新聞のニュースサイトです。事件、政治、経済、国際、スポーツ、エンタメなどの最新ニュースをお届けします。