明智光秀は本能寺の変の後、将軍になろうとした!?

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明智光秀像(滋賀県・坂本城址公園)

 昨年12月にまさかの撮り直しで巷の話題となった大河ドラマ「麒麟がくる」(長谷川博己主演)ですが、いよいよ1月19日に初回が放送されます。主人公・明智光秀といえば、「裏切り」の三文字が付きまとい、イメージが悪いのではないでしょうか。
 でも、将軍の権威が失墜した戦国時代は、信長や秀吉らが登場したように、文字通りの「下剋上」の時代でもありました。武門のトップといえば「征夷大将軍」ですが、大河主役・光秀も実は本能寺の変の後に、将軍宣下が降りていたとする説もあります。
 ここでは『征夷大将軍になり損ねた男たち』(ウェッジ刊)より、数多くの大河ドラマ時代考証を手掛けてきた著書の二木謙一氏が、光秀の将軍宣下の可能性について語ります。

本能寺の変後、人望のない光秀に世間は靡かなかった

 天正10年(1582年)6月に明智光秀は織田信長を本能寺で謀殺しました。しかし、わずか11日後に羽柴秀吉軍と山崎で戦って、敗死しています。このことから、短期間しか政権の保持ができないことを明智にたとえ、俗に「三日天下」という言葉があるくらいです。

 謀叛の動機については、怨恨、野望、室町幕府再興などのほか、さまざまな奇説・珍説などが横行していますが、いずれも決定的な確証はありません。

 ここでは、もしも光秀が敗死をせずに、いわゆる「三日天下」で終わらなかったとしたら、「明智将軍」の出現があり得たかもしれないという推論を述べておきましょう。

 信長暗殺という点からすれば、たしかにこの時は絶好のチャンスといえます。織田家の重臣のうち羽柴秀吉は備中高松城攻めの真最中でした。柴田勝家は越中の魚津にあり、滝川一益は上州の厩橋(前橋)に、丹羽長秀は信長の三男信孝とともに四国に渡海しようとしていました。
 それに徳川家康は堺の見物中。光秀をさえぎる軍勢は京都の周辺にはいなかったのです。

 光秀が6月9日付で細川藤孝に送った自筆覚書の中でも、「50日、100日のうちに近畿を平定する」といっているように、光秀は織田の重臣たちが出払っている今、信長を殺せば周囲の諸勢力は光秀に靡き、畿内平定ができると考えていたと思われます。ところが期待に反して人々は動かなかったのが現実。光秀は意外な反応に狼狽し、焦燥にかられたことでしょう。

 同じ9日、光秀は洛東吉田社の吉田兼見を訪ねて、朝廷に多額の金子を献じ、五山をはじめ大徳寺・妙心寺などにも銀子を寄付し、洛中市民の税をも免じています。むろん歓心を集め、自己の立場を有利に導こうとしたものです。だがそれでも世間は動かなかったのです。

信長誅殺後の行動が運命を左右した!

 平安以来何度も支配者の交替を経験してきた京都の人々は、光秀の想像を超えてはるかに慎重だったといえます。光秀の京都支配が、かりにもう1カ月も続いたなら、天下の形勢は有利に動いたかもしれません。時の権力者に媚びを売る勢力や大衆の動きも現れたことでしょう。

 そして好運が得られれば光秀の将軍宣下、「明智幕府」の出現があり得たかもしれません。その意味からすれば、光秀は「征夷大将軍になり損ねた男」であったといえるでしょう。

 けれども光秀は勝ち運に恵まれませんでした。計算外の速さで秀吉が備中高松から引き返してきたからです。そのため光秀は全軍を集結させる余裕もないままに山崎で秀吉軍と戦って壊滅。敗走の途中、小栗栖で落ち武者を襲う野伏の竹槍に突かれて、その後、自刃。本能寺の変から11日後のことでした。

 このように、光秀は勝ち運に乗った秀吉に敗れたわけです。しかし運というものは実力があってこそ恵まれるものです。実力闘争の戦国乱世、世論をひきつけるのは個人の力量であり、実力があればこそ大義名分もまかり通り、世間もまたこれを認めるといえるのではないでしょうか。

――二木氏はこれまで大河ドラマ14作品の時代考証を手掛けたことで知られる、中世日本史の専門家。今回は光秀の征夷大将軍への可能性に言及していただきました。もともと資料の少ない光秀であり、従来の裏切り者のイメージとは異なるさまざまな光秀像があってしかるべきです。今年の大河ドラマが光秀をどのように描くかが注目されますが、本書は従来の光秀像を少しは変えることにつながるかもしれません。

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2020年1月17日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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