コロナ禍の日本で圧倒的に足りない「実行力」――2人の米大統領が認めた実業家が語るリーダーの真髄

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輸出拡大に貢献した企業に贈られる大統領「E」賞受賞の際の藤田氏(右から2番目)

 2人の米国大統領が絶賛し、米国の製造業の未来を託された日本人実業家がいることをご存じでしょうか。米国でMRI(磁気共鳴画像)基幹システムの製造企業(クオリティー・エレクトロダイナミクス(QED))を創業し、リーディングカンパニーとして大きく飛躍させた後、現在はキヤノングループでCTOを務める藤田浩之氏です。

 在米30年にもなる氏は、コロナ禍のいま、「米国の強みは実行力にある。早く失敗して、そのことから学び、成功につなげることが大事だ」と強調します。

 ここでは、ワクチン接種の遅れなど、実行力が著しく欠如する日本の現状を米国から憂い、『Fail Fast!速い失敗が未来を創る』を刊行された藤田氏に、リーダーに必要な実行力についてお話をうかがいました。

実行力で日本を圧倒的にリードする米国

「完全にコントロールできている! 全く大丈夫だ」

 米国で新型コロナウイルスの感染者が初めて確認された2日後にこう述べたドナルド・トランプ大統領(当時)は、その後もしばらくマスクの着用を拒否し続けました。その影響もあって、多くのトランプ支持者たちもマスクを付けませんでした。

 そもそも義務教育で学ぶブラウン運動(物体の不規則運動)と拡散の知識があれば自明のことですが、マスク着用の効用があるかどうかという議論が米国で専門家や医療関係者の間でも起こったことに私は驚きました。

 だが、結果として現時点で、米国内の感染者数は3400万人近くに、死者は60万人近くにものぼっています。人種分断問題も含め、もはやこれが先進国なのかと目を疑う惨状でしたが、2021年に入って以降、ワクチンが米国のいくつかの会社から世界に先駆けて開発され、ものすごいスピードで国民へのワクチン接種プログラムを展開していることにも米国の底力が感じられます。

 さらに接種に対して消極的なグループを動機づけるために、オハイオ州では1億円の懸賞金を出したり、いくつかの州では学生に大学の学費を抽選で支払ったりするなどの奨励策が実行されました。米国はじつに様々な問題を抱えている国ですが、やはり決定するとなると、やることが早いと言えます。

 私自身、3月中旬には、オハイオ州のクリーブランド・クリニックでワクチン(ファイザー製)を2回にわたって接種しました。私が理事を務めるオハイオ州立大学(OSU)ではもっと前に打つことができたのですが、私の住むクリーブランドから、OSUのある州都コロンバスまでは自動車で片道2時間半かかるため、クリーブランド・クリニックでの機会を待ったのです。

 一方で日本はどうでしょうか。米国のように政権交代すれば官僚人事が総とっかえされるわけでもなく、国民の学力で平均値をとれば間違いなく世界トップクラスの日本ではありますが、3月時点ではG20中、最もワクチン接種が進んでいない国となっていました。もっと言えば、科学大国であるはずの日本は、なぜワクチンを自国で生産することができないのか……。

「自分の頭で考えること」が徹底されているのが真のリーダー

 米国では1月、あろうことか、トランプ大統領支持者たちが連邦政府議会に乱入するという前代未聞の事件が起きました。そんな状況にもかかわらず、日本よりも順調にワクチン開発がなされ接種が進んでいます。このことに何かしら学ぶことができるはずです。

 ではなぜ、米国にはそれが可能なのでしょうか。私は米国に住んで30年を超しますが、この国の強みは「実行する力」であり、“Fail Fast!”にあると考えます。早く失敗して(ダラダラ失敗しないで)、そのことから学びを得ることで、失敗は失敗でなくなる――成功の元になるのです。

 誰でも未知の事柄に遭遇すれば、開拓精神さながらに、自ら道を切り拓いていく。そのようにして、人種、文化的な背景がバラバラな人々が共にマーチ(行進)していくのです。

米国は多民族・多人種国家で民主主義を掲げていますが、世界中の国家が開かれ民主化される過程で将来起こり得る問題を、ある意味で先に提示しているのです。逆に言うと、米国が失敗するとき、人類にあまり希望はないということです。だから人類のために米国に失敗は許されないのです。

 トランプ氏は許容できない人種差別的な発言もしましたが、ワクチンの生産を急がせるために製薬会社にプレッシャーをかけると共に、予算も確保しました(「ワープ・スピード作戦」により約100億ドル、日本円で約1兆1000億円を確保)。また、非常時下、この短期間での新薬承認にFDA(食品医薬品局)も尽力しました。

 この一丸となった国策が、現在に好影響を生み出す結果につながっていることは間違いありません。リーダーから「今しないといけないことは何か?」が示されれば、それぞれの担当者が「自分の頭で考えて行動する」ということが徹底されているのです。

 私は2月の終わり、もう10年目を迎え、毎年恒例になっている立命館守山高校(滋賀県)の生徒の皆さんに、次のようなメッセージを送りました。

「自分たちの頭でよく考えよ。わからないことには、どうしてと疑問をもち、自分たちで考えることが大切だ」

 実際、会社を起業するにしても、教科書や手順書、ルールがあるわけではありません。人生と同じく、道なき道を自ら切り拓いていくしかないのです。

 既知のことを暗記させるといったことが主流である日本の教育のあり方も、コロナ禍を機にあらためて真剣に見直してみる必要があるのではないでしょうか。間違っていることを知りながら改めもせず、それを放りっぱなしにしておくのは罪といえるでしょう。

藤田浩之(ふじた・ひろゆき) 1966年7月27日、奈良県生まれ。1998年、米国ケース・ウェスタン・リザーブ大学(CWRU)物理学科博士課程修了、物理学博士。クリーブランド・クリニック・ヒルクレスト病院理事長。在クリーブランド日本国名誉領事。ゼネラル・エレクトリック(GE)を退社後の2006年、医療機器開発製造会社クオリティー・エレクトロダイナミクス(Quality Electrodynamics (QED))を創業。現在、社長兼CEO(最高経営責任者)。2012年、バラク・オバマ大統領の一般教書演説の際、大統領夫人貴賓席に日本人として初めて招待される。オハイオ州立大学、沖縄科学技術大学院大学、クリーブランド管弦楽団、クリーブランド財団、米日協会などの理事も兼任。2019年11月1日付けでQED株の持分70%をキヤノン株式会社に売却し、キヤノンの連結子会社化と同時に、キヤノンメディカルシステムズ株式会社CTMR事業統括部CTO(最高技術責任者)に任命される。著書に『道なき道を行け』(小学館)がある。

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2021年8月25日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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