『ボールルームへようこそ』『10DANCE』など漫画やアニメの影響で注目を集めている「競技ダンス」。
それってどういうスポーツ? と疑問に思った方でも、映画「Shall we ダンス?」やバラエティ番組の企画「ウリナリ芸能人社交ダンス部」を例に出せば汲み取っていただけるだろう。
今回は、一橋大学の競技ダンス部に所属していた経験を元に、「学生競技ダンス」の世界を描いた青春ドキュメント『紳士と淑女のコロシアム「競技ダンス」へようこそ』を刊行した二宮敦人さんに、競技ダンスの魅力やそこから得た教訓、本作を書き上げた熱い想いなどについて聞いた。
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――今回の新刊は400頁を超える大作ですが、冒頭の「はじめに」の数頁を読んだだけで、ぐぐっと物語の中に引き込まれました。それほどリアルで、競技ダンスの楽しさ、苦しさ、魅力にあふれる作品でした。
二宮 ありがとうございます。私も学生時代、部室で一生懸命読んでいたダンスビュウさんに取材して頂いて嬉しいです(笑)。大学(一橋大学)の舞研を卒部して10年、ようやく当時のことを客観視して、言語化できるようになりました。
――物語の中で、担当編集者の方とのやり取りが書かれていましたが、10年経ってようやく「僕は踊れる小説家である」と言えるようになった、ということでしょうか?
二宮 10数年前の4年間は、めちゃくちゃ楽しかったんですよ。4年間をダンスに捧げたと言ってもいいくらい…。でも、あまりにその情熱が剥き出しで、4年生の最後のほうは、パートナーや後輩との人間関係で自己嫌悪に陥ったり、正直、ダンスから逃げ出すのに精一杯という感じにもなりました。だから、それからしばらくは、あえてダンスの話を周りにしなかったんです。ところが、たまたま編集者の方とダンスの話を始めたら、次から次へと言葉が出てきて、抑え込まれていた気持ちも溢れてきて、「書くなら今しかない」と思ったんです。
――数年間は、あえてダンスと距離を置いていたんですね。
二宮 そうですね。ダンスに限らずどんなスポーツでも、熱中した時間を過ごしたあと一度離れてしまうと、なかなか元の世界に戻ることができないと思うんです。でも、戻りたいという気持ちもある。僕の場合は、すごく楽しかったのと同時に、あのとき本当はどうすればよかったのか、とか、周りのみんなはどう感じていたんだろうか、とか、もやもやしたものがずっと残っていたんです。
――それで本を書くにあたって、当時の同期の方や、先輩や後輩にお話を聞かれたんですね。
二宮 懐かしい人に会えて、本当に楽しかったし、当時聞けなかったこともたくさん聞けました。意外と、ダンスをやったことがその人の人生の役に立っていたとか、辛い経験が実になって自信が付いたとか、最高のパートナーと今もダンスを続けているとか、いい話がたくさん聞けたんです。そして、話をしていると、相手の方も自分も、少しずつ楽になっていきました。文章の書き方が、10年前と現在を行ったり来たりするようになっているのは、10年前の自分たちと競技ダンスの関わりを、今改めて検証してみようと思ったんです。でも、そう決めた途端、すごく筆が進んで、こんなに分厚い本になってしまいました(笑)。
男女が向かい合わなければいけない。これがダンスから学んだこと。
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- 紳士と淑女のコロシアム 「競技ダンス」へようこそ
- 価格:1,815円(税込)
――二宮さんご自身は、どうして大学の舞研に入ったのですか? やはり、主人公の大船のように、先輩に誘われて、部室で口説かれて…。
二宮 入部するまでのディテールはほぼ書いた通りですけど…(笑)。中学・高校と美術部で、あまり運動は得意じゃなくて、でもダンスなら、みんな初心者で同じところから始めるわけだから、頑張れるんじゃないかな、と思いました。もちろん、6年間男子校にいた僕にとって、女子と手を握るのは必然、というのも嬉しい条件でした。でも、いま思うと、人生において大事なことは全てダンスに教わったような気がします。「男女が向き合わなければいけない」ということを教えてくれたのも、「女の子と対等に話せる」ようにしてくれたのもダンスでした。夫婦生活の基本も、リード&フォローじゃないですか。男女のことを学びたかったら、ダンスをお勧めします、と今の僕は大きな声で言えます。
――新入生を勧誘する様子が描かれていますが、10年前と今とでは、かなり変わってきています。『ボールルームへようこそ』など、漫画やアニメの影響で、かなり部員が増えている大学もあるようですね。
二宮 「ダンスってカッコイイ!」って普通に言われるようになったのは嬉しいことですね。『ボールルームへようこそ』の作者、竹内友さんは、大学は違いますけど2学年上の先輩で、学連もそうですけど、ジュニアの子たちに大人気ですね。僕たちが「えっ、ダンスって競技するんだ!」と驚いたことや、勝負に対するこだわり、ダンスの奥深さといったものも描かれていて、競技ダンスの魅力が詰まった作品ですよね。
――その流れで言うと、二宮先生の作品は「競技ダンス」入門書。所々に学連のトリビア的な話が散りばめられているのも興味をそそります。特に「固定カップル」「シャドーカップル」の話は、これまで深く語られることはありませんでした。
二宮 実は僕たちが2年生のときにできた制度で、それまでは学内で固定カップルを組めなかった部員はほとんど辞めていたそうなんです。それを何とか続けられるようにと、他大学の選手と組めるようにしたのがシャドー制度。でも、学連は大学対抗の団体戦が基本ですから、立ち位置やモチベーションの持ち方が難しかったんですね。今回の取材でも、揺れる想いや悩みがあったことを改めて知りました。でも、このシャドー制度も、いまでは定着しているようでホッとしました。
――二宮さんがこの作品を通して伝えたいことは? そしてこれから二宮さんは、ダンスとどう向き合っていかれるのでしょうか?
二宮 愛好家の皆さんが、ずっと繋いで来てくださったダンスの文化、そして僕たちも夢中になった競技ダンスの世界に、もっとたくさんの人に入って来てほしいという気持ちで書きました。特に若い世代の人には、今からでも遅くないぞ、未経験でもすごく楽しいんだぞ、というのを伝えたいですね。スポーツとしてガチでやらなくても十分に楽しめますし、真剣に相手と向き合える素晴らしい世界を体感してほしいと思っています。
私自身は、本も書き上がって、本当に久しぶりですけど踊りたい気分になっています。今度は、ダンスに興味を持ってくれた妻を誘って、社交ダンスを踊ろうかな…。
※競技ダンスには人生の全てが詰まっている!本を書き終えた今、改めてそう思います。――二宮敦人インタビュー 「ダンスビュウ」2020年5月号より
取材協力:新潮社 撮影:中野昭次
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「ダンスビュウ」2020年5月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです
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