60代男性が定年後に迷惑がられるのはなぜか? コロナ禍を機に考える「定年後の居場所」

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コロナ禍はかえって定年男性の「孤独」を浮き彫りにさせている(写真photoAC)

 定年を境に男性は、それまでの会社生活とは異なる環境変化に戸惑い、なかにはうつや認知症を引き起こしたり、病気までとは言わないまでも、怒りっぽくなったり、暴言や奇行が目立つようになったりするケースが見受けられます。それらは介護や認知症並みに地域や家庭での深刻な問題になっているのが現実です。

 定年後の問題と言えば、従来は「お金」や「健康」のことを指していましたが、最近は「居場所」「孤独」がクローズアップ。定年後の居場所のなさが、うつや引きこもり、暴言など、さまざまな問題を引き起こしています。今回のコロナ禍でも一部の高齢者による問題行動が目立ち、問題視されています。

 そこで大事なのが50代の現役のうちに、定年後のことを想定しておき、準備しておくことです。ここでは『定年を病にしない』(ウェッジ刊)より、医学博士の高田明和氏が、50代のうちに「定年後の自分」に早く向き合う必要性を事例とともに語ります。

突然の環境変化についていけない定年男性

「50代は同窓会に行ける・行けないの分岐点」
「朝食後にやることがなく、居場所に戸惑う定年男性」
「70歳まで雇用を奨励する政府、本当は50代で手放したい企業」

 このように、「50代」や「定年」をテーマにしたネット記事や雑誌の特集を目にすることが増えました。ただ、「逃げ切り世代」「お荷物社員」など批判的な内容が多いため、50代や定年男性が読めば、暗い気持ちになってしまう人は結構いるのではないでしょうか。50代の人のなかには、会社に居づらい人も少なくないかもしれません。

 また、今回のコロナ禍で日本全体が緊張感につつまれるなか、「マスクを買いだめする」「並んでいる列に割り込む」「店員に暴言を吐く」など、一部の高齢者による地域での問題行動がクローズアップされています。モラルが皆無な地域での行動に対し「暴走老人」などといった批判が生まれ、新たな火種となりそうな状況です。一方で、高齢者がなぜそのような行動に走るのかを、自分の近未来の姿に重ね合わせながら考えるきっかけにもなったのではないでしょうか。

 あるアンケートでは、50代の9割以上がなにかしらの不安を抱いていることが判明しています。これは終身雇用が崩壊し、上場企業に勤めている人でも45歳以上が一斉に人員削減の対象になりかねなかったり、「年金だけでは2000万円不足する」という金融庁の報告書が公表されたりする時代に突入したことも大きいでしょう。

 高齢社会が進む一方なので、年金の支給が75歳以上からになるのは時間の問題と見る専門家もいます。そのため近い将来、望まなくとも70歳を超えても働かなければならないのが当たり前の時代になるかもしれません。

 2018年の日本人男性の平均寿命は81・25歳と過去最高を更新していますが、日常生活を制限されることなく健康に過ごせる期間を示す「健康寿命」は、2016年の時点で男性が72・14歳と推計されています。これでは健康寿命が尽きるまで働かなくてはならない人がめずらしくなくなります。健康寿命が尽きてからの9年間の不安もあります。長生きすること自体がリスクと感じてしまう人も多いでしょう。

 定年後の主な問題といえば「お金」「健康」「生きがい」でしたが、近年では定年後の居場所のなさを感じる人が多く、「孤独」が問題視されています。実際、国や自治体も重い腰を上げて高齢者の孤独対策に取り組み始めました。孤独は世界的な問題で、イギリスでは孤独担当大臣のポストが新設されたくらいです。これは孤独がイギリスの国家経済に与える影響が年間320億ポンド(約4・9兆円)と計算されたからです。

 定年男性を待ち受ける事例としては、「意欲がわかない」「出不精になる」「自分を責める」「暴言を吐く」「焦燥感にかられる」「居場所がなく孤独を感じる」「人付き合いがうまくいかない」「家庭や地域社会で困った存在と化す」などがあります。

 定年を境に多くの人は突然の環境変化に戸惑い、人によってはうつや認知症のような病気を引き起こすことがめずらしくはありません。病気とは言わないまでも、やたらと感情的になったり、暴言や奇行が目立ったりすることが多く、介護や認知症並みに家庭や社会で深刻な問題になっているのが現実です。これでは悠々自適どころか、50代から先の人生に不安しか感じない人も多いのではないでしょうか。

 ある50代の男性は、仕事はできるのですが上司からのパワハラがひどく、部下の指導も大変なため、「休日は仕事関係者がいない他県まで足を延ばし、競馬をしてからひとりでお酒を飲むことが多い。あと2年すれば息子が大学を卒業するので、それを機に転職する。年収が大きく下がってもかまわない」と言っていました。

 また、ある定年間近の男性は、「親しい友だちはいないし、とくに趣味やしたいことがない。定年初日の朝食後、なにをしたらいいかわからないし、定年後が憂鬱だ」と言っていました。

 程度の差こそあれ、このような悩みを抱えている人は多いと思われます。ですが、現役世代の50代の人のなかには、仕事が忙しく、60歳が必ずしも退職年齢とは限らず、まだまだ「定年」のことが頭をよぎらない人や、考えている余裕のない人もいるかもしれません。ここでは私が実際に相談を受けた、定年前後の環境変化についていけなかたった男性の一例をお話します。

高田明和(医学博士)

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2020年4月20日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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