【話題の本】『城郭考古学の冒険』千田嘉博著 城の姿から歴史の流れ読み解く

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 「お城ブーム」が言われて久しい。かつては城といえば天守ばかりが注目されていたが、近年はファン層の広がりとともにより深い知識を求める熱心な愛好家も増え、石垣や堀などを含めた城郭全体への関心が高まっている。

 その牽引(けんいん)役の一人である著者は、弊紙連載「千田嘉博のお城探偵」やテレビの歴史番組でもおなじみ。城の発掘調査を中心に、文字史料や絵図なども用いて往時の全体像を提示する城郭考古学の開拓者だ。1月下旬に初版8000部でスタートし、累計1万6000部と非常に好調という。

 城の形は、さまざまなことを物語る。日本の城は安土桃山時代に大きく姿を変えたが、その変化の軸となったのが、天下人となった織田信長、豊臣秀吉の城を中心とした織豊(しょくほう)系城郭だった。特別な空間として位置づけられた本丸を頂点に、階層的に構成されたその設計は、家臣たちが権力を分有するそれまでの権力構造からの転換を示していると著者は指摘する。

 日本社会が中世から近世へと移り変わっていった時代の流れを、岐阜城や安土城をはじめとした具体的な城の姿から鮮やかに読み解く学問的冒険は、実に魅力的だ。(幻冬舎新書・940円+税)

 磨井慎吾

産経新聞
2021年2月20日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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