外国人だから気づけた、日本人が自覚していない日本のすごさ

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コロナ禍の今だから伝えたい30年間住んでみてわかったこと


日本の風景

 大学卒業後にリクルートに入社し、以来30年間にわたって日本に滞在し、様々な日本人と接してきたアメリカ出身のルース・マリー・ジャーマンさん。新型コロナウイルスへの対応など、とかく海外と比較して暗い気持ちになりがちな今だからこそ、もっと日本人は自信を持つべきだと言います。

 日本を熟知している外国人だから気づいた、日本人が自覚していない誇るべき点について、著書『日本人がいつまでも誇りにしたい39のこと』よりご紹介いたします。

「落し物が返ってくる」はありえない

 2011年に起きた東日本大震災に関連して、世界的に波紋が広がったニュースがあります。それは48億円の現金が返却されたという報道です。被災地の瓦礫のなかから見つかった現金や金庫が、役所に次々と届けられたというのです。

 はじめての来日から約23年経ったときのことでしたが、日本人の「誠実な心」に慣れてしまい、こんな美談にもあまり驚かなくなったことを不思議に思います。震災で48億円の現金が戻されたという報道は、日本人がもつモラルの高さと美意識を改めて世界に広めました。海外の人々は、驚きをもってそのニュースを受け止めたに違いありません。

 日本人にとっては当たり前でも、世界の人々が心から驚いてしまうようなこと。そのようなできごとが、職場のビルでも起こりました。

 ある日、事務所がある2階のエレベーターホールの壁に「落とし物」の張り紙がありました。「心当たりのある方は管理人事務所まで」と書いてあります

 そういう「落とし物」の張り紙には、たいてい傘とかハンカチなど、何が落ちていたのか書いてあるのですが、この落し物はなんと「現金」でした。これこそ、日本の誇るべきモラル力の表れでしょう!

 だれかが床に落ちている現金に気づく。周りには、監視カメラもなく、人影もありません。それでもその人は、自分のポケットにお金をそっと入れてしまうことなく、管理人事務所に届けたのです。

 このような行為は、私は海外では見たことがありません。いまはお金があふれるバブル期ではありません。不景気で、多くの人がお金に困っているいまだからこそ、なおさらこのモラルには驚いてしまいます。

 このメンタリティー(精神性)の根拠を学び、母国で参考にするだけでなく、世界の仲間にも伝えていきたいのです。

「YES」とも「NO」とも言わないことの良さ


ルース・マリー・ジャーマン

 グレーラインを上手に歩む日本人を、いつも感心して見ています。

「少々お時間をいただきます」

「調整中です」

「社内の関係部署の意見を聞いているところです」

「YES」をあまりはっきり言わず、「NO」とも明言しないことは、日本ではよくあります。日本人が簡単に「NO」と言わないのは、できるかぎり相手の要望に応えたいという思いが強いからではないでしょうか。むずかしいリクエストをいただいたとしても、なんとかやれる方法はないかとあれこれ手を尽くす。

 その結果、「調整してみます」や「少しお時間をいただけますか」といった、グレーな答えになるのです。

 リクルートに入社したばかりのころ、こんなことがありました。朝出勤すると、同僚たちがおにぎりやパンを買ってきて、自分の机で朝食をとるのを見て、私も大好きなチョコドーナツとコーヒーを買いました。

 家でしているように、温かいコーヒーのふたをあけ、ドーナツをコーヒーにポンとつけてデスクで食べていると、それを見ていた先輩から、「ルーシー、日本人はそういうことをしないよ」とたしなめられました。

 生意気な新人だった私は、「そうでもありませんよ。ざるそばも、つゆにつけて食べるでしょう? 日本人もしていますよ!」と、反論してしまいました。

 あとから考えると、先輩は「やってはいけない」と否定したわけではありませんでした。彼女が言いたかったのは、その食べ方は行儀が悪いよ、ということだったのでしょう。

 それなのに、私が「日本人もやっているじゃない!」と非難し、NOをつきつけてしまったために、コミュニケーションがそこで硬直してしまったのです。

 あのとき、あんなふうに反論せず、「そうなんですね。日本人はやらないんですね」と言ってみればよかった。そうすれば、「おもしろい食べ方ね。おいしいの?」といった反応が返ってきたかもしれません。あるいは、「机が汚れるから気をつけてね」というように、アドバイスの言葉がもらえ、もう一歩、深いコミュニケーションにつながったかも……。いま思えば、もったいないことをしたと悔やまれます。

「NO」ではない意図があったことを理解できず、反発してしまったことはほかにもあります。

 前の会社ではお客さまからクレームがあったときや、社内の別の担当者に負担をかけたときなど、「経緯書」の提出が義務づけられていました。

 これは、どういう経緯でその問題が起きたかを報告する書類なのですが、私はどうしても「経緯書=おわび書」のように思えてならず、また強く反論してしまいました。

「なぜ社内共有のためだけに、時間をかけて経緯書を書かなければいけないの? 口頭で説明して謝っておけばいいじゃない」などと内心思っていたのです。

 でも、いま自分自身が経営者となってみて、私の反発はいかに的外れだったか痛感しています。

 経緯書はその担当者を非難するものではなく、問題の発端となった原因を究明し、これからの再発を防止するためのものだったのです。

 これは、海外でもよく知られている日本発の問題解決手法「KAIZEN(改善)」のしくみに似ています。

 つまり、現場の従業員1人ひとりが当事者意識をもって作業の見直しを行うことで、チームとして前に進むための有効な手段だと気づいたのです。

 重要なのは、ものごとがうまく進まないとき、日本人はだれかを一方的に非難するのではなく、どうしたらよくなるかを前向きに考えていること。

 いまは「NO」と言う状況を避ける、日本人のすごさを実感しています。

日本人の多くが日本の良さに気づいていない

 日本人の多くは外国人が来日する理由や、日本が好かれていることを不思議に見ていて、それらの本質に気づいていないという気がしてなりません。こんなに好かれているのに、その良さを自覚してないとしたら、もったいないです!

 今回お伝えしたのは、私の目から見た日本の魅力の一例ですが、日本人であるあなた自身が日本の良さに気づき、外国人の感動と驚きに触れると、きっと忘れられない経験となるでしょう。ぜひ日本人としてもっと自信をもってほしいと思います。

ルース・マリー・ジャーマン(会社経営者)
米国ノースカロライナ州生まれ、ハワイ州育ち。1988年にボストンのタフツ大学国際関係学部から(株)リクルートに入社し、以来30年間日本に滞在。2011年まで(株)スペースデザインに在籍し、新規事業として、来日する外国人向けの家具付きサービスアパートメントを東京・横浜・ドバイにて開発・運営業務に携わる。1998年に日本語能力試験(JLPT)1級を獲得し、2006年に、宅地建物取引士となり、公益財団法人日本女性学習財団評議員、一般社団法人HRM協会の理事に就任。2012年4月より(株)ジャーマン・インターナショナルを起業。日本企業と外国人の潜在顧客をつなげるため、経営戦略と営業・広告活動をサポートしている。2018年に日本企業のグローバル化トレーニングを行う「Train toGlobalize」事業も立ち上げる。高校・大学・リクルートシーガルズ(現オービックシーガルズ)でのチアリーダー経験を生かし、在日米国商工会議所のスペシャルイベント委員会の委員長、神奈川県地方創生推進員を務める。また、復興庁が実施する「新しい東北」プロジェクトの有識者として、全国の自治体・企業での講演活動を通して、日本が日本らしいグローバル化を果たせるよう、応援している。

ルース・マリー・ジャーマン(会社経営者)

あさ出版
2021年4月22日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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