「人生の『雨季』もいつか必ず終わる」今だからこそ触れたい「心の名医」のメッセージ

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「Withコロナ」の生活が始まってすでに1年以上が経過しました。いつ終わるとも知れない日々の生活に、重苦しさを覚えている人は少なくないでしょう。そんなときに覚えておきたいのが「やまない雨がないように、人生の『雨季』もいつか必ず終わる」こと。長年、「心の名医」として厚い信頼を寄せられていた精神科医・斎藤茂太先生の言葉です。
 こんな今だからこそ触れたい斎藤茂太先生の温かいメッセージを『精神科医・モタ先生の心が晴れる言葉』から紹介します。


晴れた空

やまない雨がないように、人生の「雨季」もいつか必ず終わる。そのことは信じていい。そしてまた雲間から太陽が顔をのぞかせるのだ。

 人は行き詰まってしまうと、先が見えない。そして、先が見えないからこそ、ますます悩む。
 ある経営者が、テレビでこんなことを言っていた。

「景気のいい時期には、みんな、ずっとこの状況が続くと思っている。しかし、景気のいい時期もいつかは必ず終わるのだ。そして、不況になると、今度は、ずっと不況が続くと思っている。これもいつかは必ず終わるのだ」

 確かにそうだと思う。これまでの歴史を見ても、世の中の流れは発展するときもあれば、縮小するときもある。
 大切なことは、いつまでもイヤになる状況が続くように思い込んで、必要以上に暗くなるのは、もうやめようということだ。

 苦しい状況は、いつか必ず終わる。
 いつか状況は変化する。それは信じていい。

 戦後しばらく、戦災でまる焼けになってしまった病院を再建するため、経営のとても厳しい時期があった。すぐに私は、母に泣きついた。当時、母は父の印税を一手に管理しており、親子だから簡単に、あわよくば無償で資金を融通してくれるだろうとたかをくくっていたのである。

 ところが、母からの返答は、契約書を作成して、正式な手続きを踏んだ上でなら、お金を貸す、しかも利息はしっかりとるという銀行さながらの対応であった。
 仕方なく私は母の融資を受け、それ以降、経営の立て直しと、借金の返済に苦労するつらい日々が続いたのである。正直私は、母を恨みもした。それほど厳しい母親だったのである。

 しかし、今になってみると、あれはとても大事な経験だったと言えるのだ。あの厳しさを経験したおかげで、私はまがりなりにも一人前の病院経営者になれたと思っている。

 結局のところ、私たちがつらいと感じている状況のすべては、「人生の雨季」のようなものではないだろうか。

 雨の日というのは気分がすぐれないものである。特に梅雨の時季などはうっとうしいことこの上ない。東南アジアなどではそれが何カ月にも及ぶ。それにもかかわらず、私たちはもう雨など降らなければいいとは思わない。

 それは、雨が、私たち人間を含め生きとし生けるものにとって、存在し生長し続けていく上で欠かせないものだと知っているからだ。

 そして、私たちは雨季がいずれ終わり、雲間からまた太陽が顔をのぞかせることも知っているのだ。


花畑写真

誠実だからあなたは悩む。あなたが自分を否定する必要はまったくないのだ。

 行き詰まってしまったあなたは、何をするべきか。
 答えは、いたって簡単である。これまでのやり方、もしくは自分自身を変えればいいのである。

 しかし、これは言うは易し。実行するのはものすごく大変なことである。
 まず、自分が信じて生きてきた、その生き方を否定しなければならない。これはとてもつらいことだ。アイデンティティの危機である。

 たとえ他人が、「こうしてみたらどうだ」と助言してくれても、それはとうていやすやすと受け入れられない方法であることが多いだろう。例えば、

「あなたがあの人とうまくいかないのは、愛想がないように見えるからよ。もう少し、愛嬌を持ってふるまってみたらどう?」

 と言われたとしよう。けれどあなたは、調子よくお世辞を言う人間が何より嫌いで、それが自分の誠実さだと信念を持って生きてきた。それを「なるほど、そうか」と次の日から、調子のいい人間に変わることができるだろうか。
 私は、できるとは思わない。

 少なくとも私は、そんなに調子よく自分のやりかたをころっと変えられる人は信用できない。

 自分のやり方を守って生きており、それを変えなければならないときには、とことん苦しむ人のほうが、人間として信頼できると思う。また、そういう人間のほうが、変わるときには、ほんとうにしっかりと変われるものなのである。

 つまり、あなたが悩んでいるということは、人間として誠実に生きている証なのだ。
自分の信条をしっかり持ち、一貫して生きている人間なのだということを証明しているのである。だから、自信を持っていただきたい。

 これまでの自己を否定する必要はまったくない。これまでの自己を認めた上で、少しずつ変わっていけばよいのである。

 少しずつ変わっていく過程では苦しみ、たくさん悩むだろう。それは言ってみれば産みの苦しみだ。痛みのない出産はない。悩み、苦しんだ先には、きっと新しいあなたがいるはずだ。行き詰まったら大いに悩んでほしい。

 そして新しい自分をつくっていこうではないか。

斎藤茂太(さいとう・しげた)
精神科医・医学博士。1916年生まれ。長年、家族・夫婦・子育て・心の病・ストレスを扱ってきた「心の名医」として、厚い信頼を集めている。愛称は「モタさん」。歌人・精神科医であった斎藤茂吉の長男でもある。著書多数。2006年逝去。

斎藤茂太(精神科医・医学博士)

あさ出版
2021年5月6日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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