【話題の本】『大阪』岸政彦、柴崎友香著 それぞれに浮かぶ街の記憶

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 約30年前に「大阪に来た」社会学者で作家の岸政彦さんと、約15年前に「大阪を出た」芥川賞作家の柴崎友香さんの初共著エッセー。昭和50年ごろから現在までの、それぞれの生活の中にある(あった)愛すべき「普通の大阪」が交互に語られる。

 お笑い、粉もん、どぎつい関西弁。こびりついたステレオタイプのイメージは大阪のひとつの側面にすぎない。2人がつづるのは、住宅と工場が密集する大阪市内の下町、淀川の河川敷、コリアンタウンやミナミのアメリカ村。その場所に落ちている思い出を2人が拾うたび、そのとき、そこに暮らしていた人たちの人生の断片がきらりと光り、陰影に富んだ街の姿が浮かび上がる。

 1月の刊行から累計約9000部。編集担当の坂上陽子さんによると、口コミでじわじわと読者が広がり、いまもツイッターなどでの感想が途切れないという。坂上さんは「大阪にゆかりがある人にとっては、知っている場所や当時はやったサブカルチャーが登場して懐かしい。大阪を知らない人も、自分の街の記憶と重ね合わせて読んでくれている」と話す。

 読後はきっと自分の「大阪」も語りたくなる、そんな一冊。(河出書房新社・1870円)

 田中佐和

産経新聞
2021年5月15日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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