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- あっちこっち食器棚めぐり
- 価格:1,760円(税込)
人気スタイリスト伊藤まさこさんが、料理家やデザイナーなど、くいしん坊仲間17組の食器棚を取材した『あっちこっち食器棚めぐり』。
本書の連載中にはパンデミックが起こり、取材がママならないことも。そこで2020年の4~5月には、伊藤さんご自身の食器棚を自ら撮影して紹介。長引くおうち時間で感じた“器の持つ力のすごさ”をつづっています。
その一節「うちの和食器」を特別公開します。
うちの和食器
みなさま、どうお過ごしでしょうか。私は、週に2回ほど買いものに出かける以外は、ただひたすら家にいる日々(多くの人がきっとそうですね)。朝起きてごはんを食べ、ちょっと仕事をすると、あれ? もうお昼。昼ごはんを食べ、またちょっと仕事すると、夕飯の支度にとりかかる時間になっている。つい昨日、娘になに食べたい?と聞いたら「ママ、それ言うの今日4回目だよ」と言われました。そうか、そんなに食べることで頭がいっぱいになっているとは!と、自分でもびっくり。最初のうちは、よし、凝った料理にでも挑戦してみるかという気持ちにもなりましたが、そう長くは続かず、家にこもりはじめて2週間が過ぎた今は、ふだんの、地味でふつうのおかずに落ち着いています。
そんな中で、私がしみじみ感じているのは、器の持つ力のすごさです。もう何度も、いや何十回も作っている「地味でふつう」なおかずの数々を、器はいつだって新鮮に見せてくれる。たとえば、ほうれん草のおひたし。今日は片口にざっくりと、翌日は一人分ずつ小鉢にちんまりと盛ってみる(どちらも盛りつけ箸を使ってていねいに、がポイント。ざっくりだけれど雑ではないのです)。お味噌汁の具が豆腐だったら、豆腐の白を引き立たせるために黒の漆にしようかなぁとか、具だくさんだったら大ぶりの合鹿(ごうろく)椀に豪快に盛ってみようかな、なんてあれこれ考えるのがたのしい。だしをとりながら、ひじきを煮ながら、さて今日はどんな器に盛ろうかな、などと考えるのです。
向かう先は、リビングにしつらえた食器棚。もともとはハンガーをかけるための棒がついていたから、クローゼットだったのでしょうか(なぜにリビングに?と謎は残りますが)。それをすべて取り払い、新たに棚板を30枚ほどつけ、中をすべて白くペイントしてできたのが、私の今の食器棚。イラスト[書籍参照]をごらんいただくとわかると思うのですが、扉は6つあり、左3つが和食器、右の3つが洋食器とグラス、とざっくり分けています。
奥行きが45センチもあるので、奥に入れたものが取り出しづらいといえば取り出しづらいのですが、そこは間隔をあけて置いたり、時々手前と奥とを入れ替えたりして乗り切っています。容量はたっぷりあるものの、それでもちょっと放っておくと、ぎゅうぎゅうになってしまう。旅した先や、知人の作家の展覧会に出向いた時に、「目が合ったから」とか、「撮影に使えるかも」などと、とくに誰かに咎められるわけでもないのに、言い訳しながら買ってしまうものですからね……。
「ぎゅうぎゅう」の解決策は、年に2、3度棚の中を見直すこと。使っていないものは、欲しいと言う友人に引き取ってもらうことにしています。使わなくなったとはいえ好きで集めた器ですもの、ああ、あそこの家で使われているんだなと思うとなんとなく気持ちもおだやかになるものです。時々、友人から「こんな料理盛ってみたよ!」なんて写真が送られてきますが、新しく居場所を得た器はまた新鮮な顔をしている。ああ、よいところにもらわれてよかったなぁと思う瞬間です。
今回は片づけが終わって、すっきりした食器棚の左、和食器コーナーをご紹介。ずっと使っている器、新しくくわわったもの、出番の多いもの、眺めるだけでうれしい器などなど、私の毎日を彩る器を並べてみました。
2020.04
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1896年(明治29年)創立。『斜陽』(太宰治)や『金閣寺』(三島由紀夫)、『さくらえび』(さくらももこ)、『1Q84』(村上春樹)、近年では『大家さんと僕』(矢部太郎)などのベストセラー作品を刊行している総合出版社。「新潮文庫の100冊」でお馴染みの新潮文庫や新潮新書、新潮クレスト・ブックス、とんぼの本などを刊行しているほか、「新潮」「芸術新潮」「週刊新潮」「ENGINE」「nicola」「月刊コミックバンチ」などの雑誌も手掛けている。
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