経済を理解するために知っておけばよい「たった一つの図」 経済学者・高橋洋一が基礎知識を解説

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■経済を理解するのに、むずかしい理論は必要ない

 経済の9割は、たった一つの図でわかる。

 こういったら驚くかもしれないが、本当だ。正直いえば、ちょっと大げさかもしれないが、9割というのは“多くの場合”と思っていただければ、ウソではない。

 おそらく、多くの人は一度は「わかりたい」と願い、経済の入門書を手に取っては、挫折してきたのではないだろうか。

 ちまたに出回っている経済書には、いろいろと小難しそうな理論が並んでいる。

「入門書」とうたっていながら、専門用語がいきなり出てくるわ、アルファベットの略に、追い打ちをかけるかのような数式の数々。

「よくわかる」などと書いていながら、さっぱりわからない――というところではないか。もしかしたら、ほんの数ページほど読んだ(見た?)だけで、「やっぱり経済は難しい」と投げ出し、本を閉じてしまったかもしれない。

 だが、安心してほしい。

 ここでは、難しい経済理論など一つも出てこない――。

 経済評論家の高橋洋一氏の著書『たった1つの図でわかる!【図解】新・経済学入門』から、経済を理解するために、本当に必要な知識について紹介をする。


【図1】需要と供給の図

■経済は複雑に見えて、基本はシンプル

 じつは、一般社会で知っておくべき経済を理解するのに、難しい理論は一つも必要ない。

 一つの図を知っているだけで、十分なのだ。

 その図こそ、「需要と供給の図」―おそらく、誰もが一度は見たことのある、例の「バッテン形の図」である(図1)。

 ひとことでいえば、経済とは「需要と供給の話」にすぎない。

「経済を理解する」というと、どこから手をつけていいかすら、さっぱりわからないという人も多いことだろう。

 だが、こと私たちの暮らしに関する経済を理解するのに必要なのは、つまるところ「物価変動」と「経済政策」だけであり、それは「需要と供給の図」一つで説明できるのだ。

 経済学者にでもなりたいのなら、広範囲に及ぶ経済学をひととおり理解できなくてはならないだろう。

 しかし、一個人として社会について「考える力」を身につける限りにおいては、経済書にある理論の大半は「不要」と言っても過言ではない。

 むしろ、経済を語るのに、いろいろな理論を必要とするのは、本質的な理解をしていない証拠だ。本質がわかっていれば、シンプルに説明できるはずだからだ。

 道具箱に一つだけ万能ツールがあれば、あれこれと用途別の道具を詰め込む必要はないだろう。

 経済では「需要と供給の図」こそが、その万能ツールなのである。

 学問の発展に、いわば「理論のための理論」が必要なのとは別の話だ。

 複雑な理論は、応用がきかない。

 そのうえ、抽象的だったり非現実的な前提を設けていたりするから、実社会で起こっていることを説明できない場合も多い。

 一方、きわめてシンプルな理論は、シンプルゆえに応用がきく。だから、実社会で起こっているさまざまなことを、それ一つで説明できる。

 難しい理論を、いくつも勉強するのは時間の無駄だ。

 私からすれば、役に立たないものを、わざわざ時間をかけて身につけようとするのは「物好き」である。それはそれとして否定はしないが、たった一つ「需要と供給の曲線」について狭く深く理解するメリットは知っておいたほうがいい。

 あのバッテン形の図さえ頭に入れておけば、世の中で起こっている経済のあれこれの大半がわかるようになるのだ。


【図2】消費者の図

■学校で習った「需要と供給の図」、なぜこんな形になる?

 ではさっそく、基本となる「需要と供給の曲線」を説明しよう。

 あの「バッテン形の図」は、いったい何を示すのか?

 需要の曲線と供給の曲線が、あるポイントで交わっている。交わるポイントによって価格が変わる。

 たしかに、そうだ。

 しかし、そもそもなぜ需要と供給の曲線は、こんな形になるのか?

 こう聞かれたら、黙ってしまう人が多いのではないか。

 まずここから説明していこう。

 ほぼあらゆるモノには、「市場」がある。

 市場とは、モノが売り買いされる「舞台」のようなものだ。消費者と生産者が、「いくらで売り買いするか?」という意識を持って、集っている場所と考えればいい。

 そこで、仮に100人の消費者が、ある商品について「いくらで買うか」を考えているとイメージしてほしい。

 何人かは「100円で買う」、何人かは「200円で買う」、また何人かは「300円で買う」……というように、値段の希望はそれぞれだ。

 これを、値段の高い順に並べると【図2】のようになる。


【図3】生産者の図

 その一方で、その商品の生産者たちが100人いる。

 彼らは彼らで、「いくらで売ろうか」と考えている。

「900円で売る」という人たちもいれば、「800円で売る」という人たちもいるし、また別の何人かは「700円で売る」……というように、生産者もまた、値段の希望はそれぞれである。

 これを、値段の低い順に並べると【図3】のようになる。

 以上の【図2】【図3】の2つの図のうち、前者は消費者のものだから、「需要=Demand」を示している。

 一方、後者は生産者のものだから、「供給=Supply」を示している。

 この2つの図を重ねた【図4】が、「需要と供給の図」なのだ。

 ところで、なぜ【図2】の需要曲線は右下がり、【図3】の供給曲線は右上がりになるのか(一般的に“曲線”といわれるが、本書ではわかりやすく直線で示すものとする)。

 それは、消費者は「より安く買いたい」、生産者は「より高く売りたい」からだ。

 誰だって、売るときはより高く売りたいし、買うときはより安く買いたい。自分に当てはめてみれば、すぐイメージがわくだろう。


【図4】需要と供給の図はこうしてできる!

 つまり、【図4】のQ(数量)は、売れる個数を示している。

 買い手たちにとっては、値段が低くなるほど「買う個数」は増え、売り手たちにとっては値段が高くなるほど「売る個数」が増える。

 言い換えれば、需要曲線に対しては「買う数の多さ=需用量」、供給曲線に対しては「売る数の多さ=供給量」を示している。

 だから、需要曲線は右下がり、供給曲線は右上がりになり、「需要と供給の図」(図4)は、例の「バッテン形」になる。

 さて、消費者と生産者の「買いたい値段」と「売りたい値段」の図が重なったところで、両者のマッチングが起こる。

 真っ先に取引成立できるのは「900円で買いたい人」と「100円で売りたい人」だ(ここでは0円は除外する)。

【図4】でいえば、一番左端の消費者と生産者の組み合わせである。

 次に「800円で買う人」と「200円で売る人」、「700円で買う人」と「300円で売る人」……という具合に、だんだん互いの差額が小さくなっていく。

 そして、消費者と生産者の希望が、ピッタリ合わさるポイントにたどり着く。

【図4】でいえば、「500円で買う人」と「500円で売る人」がいる地点だ。

それ以降は、「より安く買いたい人」と「より高く売りたい人」になっていくから、取引はできない。

 市場とは、モノの値段を一つに定める場所であり、実際には「900円で買う人」と「100円で売る人」、「100円で買う人」と「200円で売る人」というふうにバラバラの取引は成立しないためだ。

 したがって、より多くの消費者と生産者が納得できる価格に落ち着くことになる。


【図5】 消費者余剰と生産者余剰

 それが、需要と供給が交わったポイントというわけだ。 

 「モノの値段」とは、こうして定まるのである。

 ここでは100人の消費者と100人の生産者で説明したが、実社会では同じことが何万人、何十万人の規模で起こっていると考えればいい。

 ちなみに、その商品の値段が500円に決まったら「900円で買う」と考えていた消費者は400円、「800円で買う」と考えていた消費者は300円、より安く買える。

 このように、消費者に「お得」が出ている分を「消費者余剰」という。

 反対に、「100円で売る」と考えていた生産者は400円、「300円で売る」と考えていた生産者は200円、より高く売ることができる。

 もう、わかるだろう。

 こうした生産者の「お得」の分は、「生産者余剰」というのである(図5)。

高橋洋一
1955年東京都生まれ。都立小石川高校(現・都立小石川中等教育学校)を経て、東京大学理学部数学科・経済学部経済学科卒業。博士(政策研究)。1980年に大蔵省(現・財務省)入省。大蔵省理財局資金企画室長、プリンストン大学客員研究員、内閣府参事官(経済財政諮問会議特命室)、総務大臣補佐官、内閣参事官(総理補佐官補)等を歴任。小泉内閣・第一次安倍内閣ではブレーンとして活躍し、「霞が関埋蔵金」の公表や「ふるさと納税」「ねんきん定期便」など数々の政策提案・実現をしてきた。また、戦後の日本における経済の最重要問題といわれる、バブル崩壊後の「不良債権処理」の陣頭指揮をとり、不良債権償却の「大魔王」のあだ名を頂戴した。2008年退官。その後、菅政権では内閣官房参与もつとめ、現在、嘉悦大学経営経済学部教授、株式会社政策工房代表取締役会長。『【図解】ピケティ入門』『【明解】会計学入門』『【図解】統計学超入門』『外交戦』『【明解】経済理論入門』『【明解】政治学入門』『99% の日本人がわかっていない新・国債の真実』『【図解】新・地政学入門』(以上、あさ出版)、第17回山本七平賞を受賞した『さらば財務省! 官僚すべてを敵にした男の告白』(講談社)など、ベスト・ロングセラー多数。

あさ出版
2023年6月22日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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