加藤シゲアキの新境地！　ただの“青春小説あるある”ではない直木賞候補作『オルタネート』試し読み

アイドルと作家、二つの顔を持つ加藤シゲアキ。そんな著者が新たに描くのは、10代の過酷さと煌めきを鮮やかに切り取った新時代の青春小説。高校生限定のマッチングアプリ「オルタネート」が必須の現代で、それぞれの悩みやトラウマを抱えた3人の高校生。そんな彼らの恋、友情、そして未来が「オルタネート」を通して動き出す――。

吉川英治文学賞、高校生直木賞、『ダヴィンチ』BOOK OF THE YEAR 2021の3冠を達成、直木賞候補、本屋大賞にもノミネートされた、作家・加藤シゲアキの新境地！

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部員をホワイトボードの前に集めてイスに座らせると、ひとり前に立つ自分はなんだか体育会系のコーチみたいだなと思う。新入生たちは前髪の切りそろえられた似たような髪型をしていた。最近人気の女性アイドルの髪型とほとんど同じで、これが調理部に入ろうとする生徒の現実だよなぁ、と今後が心配になる。

「今日はお疲れ様でした。いきなり園芸部のお手伝いをさせられて、むかついている人もいるかもしれません。ごめんね、って思うけど、私たちはやってきてよかったと思っているから、みなさんにもお願いしました。今日みんなで植えた種、あの種たちが食材になったとき、料理して食べることの意味を考えると思います。それがとても大事なことだと、ここにいる三年生と二年生は実感しています。なのでみなさんにもそのことが伝わるといいなと私は思っています」

　新入生たちはぽかんとした顔で蓉を見つめている。説教くさくなりすぎてしまったのだろうか。いや、そうじゃなくて、やっぱり嫌われてるのかもしれない。どうにかしなくちゃと次の言葉を考えているうちに、喉（のど）がきゅっとなってむせてしまった。前年度の部長だった澪（みお）さんは、どんなときも落ちついていた。彼女の器量を今になって思い知る。

「なんて言われても堅苦しいよね。違う言い方すると、園芸部、あの人しかいないから助けてあげたいってこともあって。少しでも余裕があるときは手伝ってもらえると嬉しい」

　ダイキは部屋の一番後ろに立って両手を振った。新入生が「あの畑以外も手伝うんですか」と気怠（けだる）げな声で言った。

「畑だけでもいい。でももし困っていたり、気づいたことがあったりしたら、彼に少しだけ手を貸してもらえると嬉しいな」

　よろしくね、というダイキをまだ新入生たちは見慣れていないようで、目の前にいる彼が本当に存在しているのか見極めようとしているみたいだった。

「帰りにでもさ、改めて校内の花壇見てあげてよ。かわいい花たくさん咲いてるよ」

　そこで一区切りをつけ、じゃあこれからの活動を説明するから、と話を続ける。

「調理部の活動は当然ではありますが主に調理実習です。メニューはその回の当番が考えてきたものから、みんなで話し合って決定していきます。作ってみたいもの、食べてみたいもの、メニューはなんでもかまいません。もちろん予算の範囲内だけどね。当番になったけど思いつかないって人は、いつでも相談に乗るから気軽に声をかけてください。調理実習の他に、体育会系の部活から差し入れを頼まれることもあります。あと、一番のイベントと言えば文化祭かな。調理部が販売するメニューは毎年とても好評で、たくさんの人がやってきます」