発売当時、大手のシェアに押され苦戦していた「ガリガリ君」が生き残った理由

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ガリガリ君で知られる赤城乳業が成功した理由とは?(画像はイメージです)

 成功している企業はどんな取り組みをしているのでしょうか?

 大手企業のシェアに押され苦戦する企業や構造変化に伴い衰退し始めた業界など、ビジネスの数だけ成功と失敗があります。

 今回は、早稲田大学ビジネススクール教授の山田英夫さんが監修した『サクッとわかるビジネス教養 ビジネスモデル』(新星出版社)の中から、ガリガリ君で知られる赤城乳業と、百貨店のマルイの二社の生き残りをかけた戦略から生まれたビジネスモデルを抜粋・再編集してお届けします。

■赤城乳業のビジネスモデル

 1981年発売の「ガリガリ君」で知られる赤城乳業は、ユニークなテレビCMなどで話題を集めていますが、その裏には、発売初期からチャレンジングな戦略がありました。

 ガリガリ君の発売当時、アイスキャンディーは駄菓子屋の専用ショーケースで販売するのが一般的でしたが、先発の大手企業がおさえており、売上を伸ばしにくい状態でした。そこで、まだ黎明期であったコンビニでの販売に注力。コンビニの成長とともに、販売も増加していきました。

 また、同社の「あそびましょ。」というスローガンもポイントです。テレビCMで、あえて「値上げ」や「売れていないこと」を訴求したり、ナポリタン味やコーンポタージュ味などの「ありえない味」を販売するなど、他社にはマネできない展開をすることで、独自性を発揮しているのです。

■マルイのビジネスモデル

 株式会社丸井グループは、関東の都市部を中心に「マルイ」「モディ」などの百貨店を展開しています。過去には仕入れ販売はもちろん、クレジットカードを発行して金融ビジネスに参入したり、出店企業からの賃料をメインの収益とする賃貸借型へ転換したりするなどの戦略を行ってきました。そんな丸井の新たな戦略が「売らない店」。百貨店なのに売らないとはどういうことなのでしょうか。

「売らない店」とは、ネット販売のみを行う新しい店をマルイに出店させ、基本的に店頭では販売せず、ECサイトで販売する戦略です。たとえば、その一環としてマルイに出店した、オーダースーツを手がける「FABRIC TOKYO」は、店頭では採寸や試着がメインで、販売はECサイトで行います。これではマルイがどのように収益を上げているのかがわかりませんが、実は、工夫があるのです。

「売らない店」戦略について、まずは出店する側のメリットを考えてみます。新しい店にとっては、マルイに出店することで、認知や信頼を得られます。また、マルイに運営サービスを提供してもらえるため、店舗運営のノウハウを身につけることも可能です。さらに、ネットとリアルを併用すると、客単価が増すという効果もあるといわれています。

 マルイにとってのメリットは、新しい店をテナントとすることで、百貨店として独自性を高めることができること。実際に「売らない店」を出店してから、来店客は増加しているそうです。

 また、販売するのはECサイトですが、その際、丸井の発行するエポスカードを使えば、丸井の収益になるのです。さらに、丸井は「売らない店」へ資本出資も行っています。将来的に「売らない店」が成長し、株価が上昇すれば、キャピタルゲインを得られる可能性もあるのです。


ビジネスモデルはビジネスの数だけ存在する(画像 (C)Shutterstock)

 国内では、2021年に大丸東京店にショールーミングスペースとして「明日見世」を、さらに、ニューヨーク発祥の売らない百貨店も日本に進出する計画があるといわれています。すでに、こうした「売らない店」の競争ははじまっているのです。

■新たなビジネスモデルが誕生するターニングポイント

 最近では、新しいビジネスモデルが生まれると、その業界の構造自体が変わってしまい、そのことでまた新しいビジネスモデルが生まれることもあります。

 具体的には、たとえば一昔前まで電話でやりとりしていた旅行会社やレストランの予約などは、今ではWebサイトで行うのが当たり前になりました。ですが、このWeb予約の方法が生まれたことによって、今度はそれらのダブルブッキングや、お店の機会損失といった新たな問題が起きているのです。

 そのため今度は、それらを一元管理する「サイトコントローラー」という新たなビジネスモデルが誕生し、現在とても重要な役割を果たしています。

 このように、ビジネスモデルというのは、単一の会社が開発して終わるものではなく、それによって業界の構造が変わっていき、そしてまた新しいビジネスモデルを生む可能性があるという点にも注目していただきたいと思います。

 ぜひ、いろいろな企業のビジネスモデルを参考に、そこで見つけたヒントを手がかりにして、みなさんの業界にも取り込めそうなものを一度抽象化して、移植するとよいのではないでしょうか。

山田英夫
慶應義塾大学大学院経営管理研究科(MBA)修了後、三菱総合研究所にて大企業のコンサルティングに従事。1989年早稲田大学に転じ、大学院経営管理研究科(ビジネススクール)教授。専門は、競争戦略論、ビジネスモデル。博士(学術:早稲田大学)。アステラス製薬、NEC、ふくおかフィナンシャルグループ、サントリーHDの社外監査役・取締役を歴任。主著に『競争しない競争戦略 改訂版』『異業種に学ぶビジネスモデル』日本経済新聞出版、『成功企業に潜むビジネスモデルのルール』ダイヤモンド社、『ビジネス・フレームワークの落とし穴』光文社、『カニバリゼーション』ダイヤモンド社、2023 など

Fun-Life!
2023年7月19日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新星出版社

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