お酒を飲まない人も注意! 最速で「肝臓」を傷つけてしまう意外な飲み物とは? 肝臓専門医が解説

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お酒を飲まない人も注意! 日本人成人の3人に1人が脂肪肝(イメージ画像)

 暦のうえでは秋を迎えましたが、まだまだ厳しい暑さが続いています。冷たいビールやジュースはのど越しがよく、つい何杯も飲んでしまいがちですが、飲み過ぎに気をつけたいのはアルコール飲料だけではありません。

 じつは、アルコールでなく、カラダによいとされている飲み物さえも実は逆効果であり、健康のかなめである肝臓を最も早いスピードで傷つけ、“脂肪肝”を作り出していることを皆さんはご存知でしょうか。

 これまで20年以上にわたり肝臓疾患の治療にあたってきた専門医 尾形哲医師は、次のように語っています。

「現在、日本人成人の3人に1人が“脂肪肝”であると報告されています。脂肪肝患者の一部は、まったくお酒を飲まないにもかかわらず、脂肪肝炎から肝硬変、肝癌となることが知られており、近年、脂肪肝由来の肝硬変、肝癌でいのちを落とす方の数は増加の一途をたどっています。一方、脂肪肝が進行しても、苦しい、痛いなどの自覚症状が現れることはほとんどありません。脂肪肝は、命に関わる疾患であるにもかかわらず、その治療の重要性に気づいておられる方は、医療関係者でさえまだ少数といってよいでしょう」

 では一体、どのような飲み物が肝臓にダメージを与えるのでしょうか。また、すでに肥満や脂肪肝を指摘されている方は、どのような点に注意すれば健康なカラダを取り戻すことができるのでしょうか。その方法を、尾形さんの著書『ダイエットも健康も肝臓こそすべて』(新星出版社刊)から一部抜粋し、再編集してお届けします。

生活習慣病の上流に位置する「脂肪肝」

 免疫、解毒、代謝という重要な役割を担っている肝臓は、24時間365日、絶え間なく働き続けています。その重さは1000~1800gもあり、全臓器中最重量であるだけでなく、基礎代謝量の27%を消費すると言われており、その消費量も全臓器中最大です。この肝臓に脂肪が溜まるとどうなるのでしょうか。

 肝臓に脂肪が溜まる「脂肪肝」になってしまうと、そこを起点に糖尿病、脳血管障害、高血圧、脂質異常症などの生活習慣病がドミノ倒しのように生じてきます。つまり、脂肪肝はあらゆる生活習慣病の上流にあたるのです。裏を返せば、脂肪肝を改善することができれば、命に関わる病気を予防することができます。

「肝臓から脂肪を落とす」ことができれば、肝機能の改善、肝炎、肝硬変の予防となるだけでなく、同時に糖尿病の指標であるヘモグロビンA1cのほか、LDLコレステロール(悪玉コレステロール)、尿酸などの生活習慣病に関わる異常値も改善することができるのです。

脂肪肝を作る最大の原因は「糖」

 では、肝臓に効率よく脂肪がついてしまう方法とは何だと思いますか? 世界三大珍味の1つとして知られるフォアグラ(フランス語でフォア(foie)=肝臓、グラ(gras)=脂肪のことで、文字通り脂肪肝を意味する)の作り方を例に解説します。

 フランスでは、フォアグラを作るためにガチョウにひらすらトウモロコシを食べさせる、という伝統的な方法があります(現在は動物愛護の観点から家禽の生活環境が見直されています)。

 まず、ガチョウを飼育小屋に入れ、消化がよいようにやわらかく蒸したトウモロコシを1日3回、専用の漏斗で強制的に胃に流し込みます。エサは1回250gから始めて、最終的に500gまで徐々に増やしていきます。すると、わずか1か月で肝臓は2kgに達し、脂肪肝=フォアグラとなります。

 ここで重要なのは、「ガチョウがトウモロコシだけをエサにしていた」という事実です。トウモロコシの粒は、総熱量の75%を糖質で占めていて、脂肪の割合はわずか15%に過ぎません。すなわち食べた脂肪が蓄積して脂肪肝になったのではなく、トウモロコシのでんぷんであるブドウ糖の集まりがカラダの中で脂肪に変わり、肝臓に蓄積したのです。

 食べたトウモロコシのでんぷんは、小腸でブドウ糖(グルコース)に分解されます。ブドウ糖は膵臓から分泌されるインスリンの働きによって細胞に取り込まれ、脳や筋肉、各臓器のエネルギーとして使われます。

 血中のブドウ糖濃度は、膵臓から分泌されるホルモン、インスリンの働きにより一定に保たれていますので、ヒトの血液中のブドウ糖総量はわずか5g程度しかありません。

 細胞のエネルギーとして使われなかった残りのブドウ糖はどこへいくのでしょうか?

 ブドウ糖は、ブドウ糖のままでカラダに蓄えられ、再使用されることはありません。まず、グリコーゲンとなって肝臓あるいは筋肉に蓄えられます。肝臓、筋肉がグリコーゲンでいっぱいになると、新たに入ってきたブドウ糖は、インスリンの作用によって中性脂肪に変換されるのです。インスリンには血糖を下げる=細胞内にブドウ糖を押し込む作用があるだけでなく、エネルギーとして使われなかったブドウ糖を中性脂肪に変換する作用があることが重要なポイントです。

 もうおわかりでしょう。ガチョウはフォアグラとなる際、筋肉を用いる必要のない=グリコーゲンをほとんど消費しない場所で、多量の糖質を与えられて飼われています。それゆえに、消費されるエネルギーよりはるかに多いブドウ糖から、効率よく中性脂肪への変換が行われ、肝臓の細胞内に脂肪が蓄積していくのです。

 脂肪肝を指摘された方は、真っ先に「脂肪をとるのを減らせばよい」と考えがちです。しかし、肉の脂身や揚げ物を食べなくても、糖質の量に無頓着なままでは脂肪肝は改善しません。真っ先に減らすべきは糖質量なのです。すなわち加糖飲料、米、パン、麺、スナック菓子などの糖質を減らす必要があるのです。

尾形哲(オガタサトシ)
佐久市立国保浅間総合病院 外科部長(肝胆膵外科)。同院「スマート外来(脂肪肝専門外来)」担当医。医学博士。1995年 神戸大学医学部医学科卒業。2003年 医学部大学院博士課程終了。パリ、ソウルの病院で多くの肝移植手術を経験したのち、2009年から日本赤十字社医療センター肝胆膵・移植外科で生体肝移植チーフを務める。東京女子医科大学消化器病センター勤務を経て、2016年より長野県に移住。日本外科学会専門医、日本消化器外科学会専門医・指導医、日本肝臓学会専門医。著書に『専門医が教える 肝臓から脂肪を落とす食事術』(KADOKAWA)がある。Twitter:@ogatas0520

尾形哲(佐久市立国保浅間総合病院外科部長)/イメージ画像:Shutterstock/図版作成:吉崎広明(ベルソグラフィック)

Fun-Life!
2023年8月31日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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