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- 1文が書ければ2000字の文章は書ける
- 価格:1,650円(税込)
医師として活躍しながら小学館ノンフィクション大賞を受賞、読売新聞ヨミドクターでは総計1億900万PVを達成した松永正訓氏。そんな著者が「分かりやすい文章」の書き方を教える『1文が書ければ2000字の文章は書ける』から、短い文章の書き方と、それを長い文章に活かすコツを紹介します。
まずはシンプルな短い文が書けること
文章術の本には、文を可能な限り短くせよという助言が多い。文はシンプルであればあるほど読みやすいという指摘だ。これはまったくその通りだと私も思う。私の1文も短いものが多い。シンプルな短い文を基本とすることは、間違いなく正しい。
だからまずは短い文を書いて基礎を固めてほしい。40 ~ 60字くらいが一番読みやすいし、書きやすいという指南もある。自分が書いている文字数をいちいち数えている人はまずいないと思うが、参考になる意見ではある。
自著から短い文を次々に繰り出している部分を引用してみる。私が若い頃に留学を目指す場面である。「神経芽腫(しんけいがしゅ)」というのは小児がんの名称だ。
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神経芽腫の研究の総本山はアメリカのフィラデルフィア小児病院の研究室だった。ここのレベルは世界一である。ただ、日本人の留学生をほとんど受け入れてなかった。ウワサでは、最先端の研究情報が日本に流出するのを防ぎたかったという話だ。
一方、オーストラリアのシドニーに新興勢力があり、いい論文を次々に出していた。シドニー! いいじゃん。2000年にはオリンピックも開催される。ぼくはシドニーに留学したいと思った。研究のリーダーは、ニューサウスウェールズ大学のグレン・マーシャル先生。では、この先生とどうやってコンタクトを取るか? ぼくにはマル秘作戦があった。
1998年10月に横浜で国際小児がん学会が開催された。これはぼくにとって初めての英語でのプレゼンテーションだ。そしてこの学会にグレン・マーシャル先生も参加していた。ぼくのマル秘作戦とは、アポ無し突撃である。
――『患者が知らない開業医の本音』松永正訓/新潮新書
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374文字の文章は、16個の文でできている。1文平均23文字である。分かりやすく読みやすいと言えるだろう。誤読されることもない。こういった短文を積み上げていくのが文章の基礎になる。
長い文に挑戦する
基礎が固まったら長い文に挑戦してほしい。長い文を書くためには、短い文を書くとき以上に分かりやすさを意識するので、作文の技術が上がる。実際、長い文でも分かりやすい文というのはいくらでも存在する。例えば次のような例はどうだろうか。
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山口県阿武町から誤って入金された4630万円のうち400万円を別の口座に振り替えたとして、住民の◯◯◯容疑者(24)が電子計算機 使用詐欺の疑いで逮捕された事件で、同容疑者が大半の金を振り替えていた決済代行業者から3500万円余りが町の口座に返還されたことが、町関係者への取材で分かった。
――朝日新聞2022年5月23日から引用。容疑者名は伏せた。
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「~~として」「~~で逮捕された事件で」「返還されたことが」「~~で分かった」という流れは実にスムーズである。143文字あっても、読者には何の問題もなく読めるだろう。
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ランタンを夜空に飛ばすクリスマスイベントを中止したのに代金を返さないのは不当だとして、NPO法人「消費者支援機構関西」(大阪市) が5日、消費者被害の一括救済をめざす消費者裁判手続き特例法に基づき、神戸市内のイベント運営会社を相手取り、代金相当額の支払い義務があることを確認する訴訟を大阪地裁に起こした。
――朝日新聞2023年4月5日から引用
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この記事も151文字あるが、読みやすい。「~~は不当だとして」「~~が5日」「~~に基づき」「~~を相手取り」「~~訴訟を~~に起こした」という流れにはほとんど淀みがない。前から後ろへ後ろへと流れる文は、長くても読みやすい。特に時系列になっている文はそうだ。次の作例を読んでみてほしい。
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昨年から仕事が激増した私は、毎日毎日イヤな思いをしているうちに、少しずつ気分が塞ぎ込んでいき、朝起きるのがどんどんつらくなってしまい、しだいにうつっぽい状態に陥り、この先満足に仕事ができる気がしなくなっていき、あまり誰とも会話しないようになっていった。
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128文字あり、やや長いが問題なく読める。過去から未来に向かって心の動きが一方向になっているからだろう。これを句点(マル)で刻んで、リズムを作るのもテクニックの1つだが、長いから悪いとは言えない例になっているだろう。
文芸作品にも長い文を見かける。次の例は大江健三郎さんの『奇妙な仕事』の 冒頭の文章である。
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附属病院の前の広い舗道を時計台へ向かって歩いて行くと急に視界の展ける十字路で、若い街路樹のしなやかな梢の連なりの向こうに建築中の建物の鉄骨がぎしぎし空に突きたっているあたりから数知れない犬の吠え声が聞こえて来た。風の向きが変わるたびに犬の声はひどく激しく盛り上がり、空へひしめきながらのぼって行くようだったり、遠くで執拗に反響しつづけているようだったりした。
――『奇妙な仕事』大江健三郎/新潮文庫『見るまえに跳べ』に収載
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この105文字と73文字は人によっては読みにくいと感じるかもしれない。しかし私はそうは思わない。景色の見え方が一方向だからである。「歩いて行く」 →「視界の展ける」→「向こうに」→「あたりから」→「吠え声が聞こえて来た」という流れには無理がない。2つ目の文も、「~~だったり」「~~だったりした」と並びがまとまっている。
では、短い文と長い文のバランスはどう考えればいいのだろうか。文をとにかくシンプルに短くすることにこだわると、全体の文章構成が味気なくなると私は考える。短い文の羅列は極端なことを言えば箇条書きのようなものだ。
いわゆる実用本といわれるジャンルの本の中には、分かりやすさを優先してシンプルな文章が並び、読み応えのない作品がある。実用本を読むのに楽しさは必要ないという意見もあるかもしれないが、私の考えは少し違う。おもしろくてためになるから読者の心に残るのではないだろうか。著者の熱意とか息遣いが伝わって初めて、本はメッセージ性を持つ。
長い文もぜひ練習した方がいい。
松永正訓(まつなが ただし)
医師、作家。1961年、東京都生まれ。1987年、千葉大学医学部を卒業し、小児外科医となる。千葉大学医学部附属病院で19年間勤務し、 約1800件の手術を手掛ける。2006年、「松永クリニック小児科・小児外科」を開院。日本小児外科学会・会長特別表彰など受賞歴多数。 2013年、『運命の子 トリソミー 短命という定めの男の子を授かった家族の物語』で小学館ノンフィクション大賞を受賞。19年、『発達障害に生まれて 自閉症児と母の17年』で日本医学ジャーナリスト協会賞大賞を受賞。著書に『いのちは輝く わが子の障害を受け入れるとき』(中央公論新社)、『小児がん外科医 君たちが教えてくれたこと』(中公文庫)、『呼吸器の子』(現代書館)、『患者が知らない開業医の本音』(新潮新書)など15冊ある。読売新聞の医療・健康・ 介護サイト「ヨミドクター」の連載では総計1億900万PVを達成。
協力:日本実業出版社
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