【祝MVP】大谷翔平「つらいのは自分だけじゃない」 過去の肘故障でチームメイトが目撃していた大谷の“流儀”とは

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大谷翔平選手(2018年撮影)

日本人として、アジア出身選手としても史上初の大リーグホームラン王に輝いた大谷翔平選手。

二刀流として驚くべき活躍を繰り広げているが、彼の道のりは決して平坦なものではない。
今シーズン終盤に向けてさらなる活躍が期待されていた中、8月には右肘靱帯の損傷がわかり世界中に衝撃が走った。

しかしデビューシーズンにも大谷は肘の故障を経験している。1度目のトミー・ジョン手術を受けたときだ。2018年シーズン、華々しいデビューを飾った矢先のケガに、大谷選手はどう向き合ったのか。

チームメイトや現地米国記者の証言がふんだんに盛り込まれた取材録がある。『大谷翔平 二刀流メジャーリーガー誕生の軌跡』(ジェイ・パリス、辰巳出版)だ。当時も日本メディアは怪我に消沈し騒ぎ立てたが、当の本人は違っていた。大谷の姿を至近距離で目撃していた人々の貴重な証言を振り返ってみる。

(以下は『大谷翔平 二刀流メジャーリーガー誕生の軌跡』(辰巳出版)をもとに再構成したものです)
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■同僚投手が語った大谷のメジャー移籍「お金のためではない」

2018年当時、すでに世間では、大谷は契約金制限のなくなる25歳を待たず、シーズン終了後にメジャーへ行くという噂が流れていた。

田中将大はメジャー行きを遅らせたため、ニューヨーク・ヤンキースと総額1億5500万ドルの7年契約を結ぶことになった。それに比べると、契約金230万ドル、メジャーリーグの最低年俸54万5000ドルという大谷の契約条件が、いかに破格であるかがわかるだろう。

エンゼルスは史上最大のバーゲンセールに勝利し、大谷を6年間在籍させることが見込まれたが、日本ハムもまたこの契約の恩恵を受けた。ポスティング・システムによって大谷のメジャー移籍を実現させ、2000万ドルの譲渡金を受け取ったのだ。

巨額の契約金が幻となったことなど、大谷は気にしていなかった。メジャーで二刀流選手としてやっていくことは、金には代えられない価値があるのだ。むしろ報酬面を気にせずにすんでよかったと本人は思っており、騒いでいるのは周囲やメディアばかりだった。

「その事実が大谷のすべてを物語っている」

エンゼルスの投手であったタイラー・スキャッグスは、大谷が契約した際にニューヨーク・タイムズ紙に語った。

「彼はお金のためにアメリカに来るのではないと示したんだ。野球をやるためだけに来るのさ」

■米国記者が目のあたりにした大谷独特の“流儀”

大谷の偉大さは、ユニフォーム姿で見せるパフォーマンスの質や、160km超えの投球や137m超えのホームラン、そしてそれに酔いしれる大観衆だけで測れるものではない。

心の奥底で、彼は他人と違うことをやってみたいという思いを抱いていたのだ。自分だけの独自の野球をやりたいという、確固たる信念を持っていた。

単純に考えれば、練習時間を投打の双方に半分ずつ割り当てればいい。しかし、大谷は誰よりも努力した。そうすることで、人々の常識を覆そうという大谷の挑戦は、誰も予想しなかった野球を可能とし、周りの意識を変えていくことになった。

大谷の信じられないようなプレーは1世紀近くも人々が目にしていなかったものであり、それゆえに彼の人気には一気に火がついた。

ファンが大谷に惹きつけられるのは、メジャーリーグという高いレベルの場で彼が新たな挑戦をしているからでもある。彼自身にしか見えないであろう山頂を目指して邁進していく姿が、人々の心をとらえるのだろう。

さらに、大谷独特の“流儀”もまた、称賛の的となっている。

親の目線で見てみると、大谷は非常に礼儀正しい人物であることに気づく。日本の文化をそのままに、大谷は誰かに近づくときに礼をする。それが相手チームのキャッチャーや審判であっても、その日の最初の打席に入るときには礼を欠かさない。

打球がとらえられてアウトとなれば、戻って自分が放り投げたバットを取りに行く。フォアボールで歩く際は、足首、肘、手首からサポーターを外し、綺麗にまとめてバットボーイに渡す。

■故障中の大谷をチームメイトはどう評価していた?

エンゼルスのチーム名がレターヘッドに入った文書が公開された。その一文一文を読むにつれ、誰もが衝撃を受けずにいられなかった。

エンゼルスも、大谷翔平自身も、もっとも恐れていた結果がMRIの検査によって明らかになり、そのニュースがメディアに広がっていった。

エンゼルスの医師団は、損傷した内側側副靭帯の再建のため、大谷にトミー・ジョン手術をすすめる方針を固めたというのだ。

突然、二刀流のスーパースターになるという大谷の夢は打ち砕かれてしまった。少なくとも1シーズンのあいだは。手術には長期のリハビリが必要となり、大谷は2019年に登板することができなくなってしまう。

この事実を受け、大谷は一人で悲しみに暮れているのだろうか。いや、それはない。投げられないなら、投げられないでいい。バットを振ることはできるのだから、彼は打席でベストを尽くすまでだ。

「彼がどれだけ真剣に野球と向き合っているか、周りには決してわからないだろう」ショートのアンドレルトン・シモンズはmlb.com にそう話した。「球場に来て、練習する。帰宅してもトレーニングする。毎日のように、チームメイトが感心するほど練習に打ち込んでいる。この状況でも前向きな姿勢なのは素晴らしいね。打撃力はとんでもなく強いし」

【著者】ジェイ・パリス
スポーツ・ジャーナリスト。主な著書に『Game of My Life San Diego Chargers』、『Game of My Life Rams』などがある。全米プロフットボール記者協会の記者賞を3度受賞しており、現在はMLB.com、Forbs.com、AP 通信の記者として活躍している。カリフォルニア州、サンディエゴ在住。

【訳者】関 麻衣子
千葉県生まれ。青山学院大学文学部卒。おもな訳書に『その輝きを僕は知らない』ブランドン・テイラー、『ボーイズクラブの掟』エリカ・カッツ(いずれも早川書房)、『リオネル・メッシ(MESSI GRAPHICA)』サンジーヴ・シェティ(東洋館出版社)など。

辰巳出版
2023年10月4日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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