【話題の本】『まいまいつぶろ』村木嵐著

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■9代家重を再評価

江戸幕府の第9代将軍である徳川家重の歩みを、周囲で彼を支えた人々の姿とともに描く。すでに「本屋が選ぶ時代小説大賞」などを受賞。17日に選考会を控える第170回直木賞にもノミネートされている。

生まれながらに体が不自由な家重は舌もほとんど動かせない。言語は不明瞭で、意思疎通ができない。おまけにたびたび尿を漏らし、歩けば跡が付くことから「まいまいつぶろ(かたつむり)」と蔑まれていた。そんな家重の言葉をただ一人理解できたのが側近の大岡忠光。忠光は家重の〝通訳〟としてそばで言葉を発するが、本当に主の声を伝えているのか?という疑念も渦巻く。やがてある企(たくら)みが持ち上がり…。

家重の苦しみを思い、鏡のように寄り添う忠光。身分の違いを超え、心の奥深くで通じ合う2人の絆が胸に迫る。家重の聡明さや鋭い観察眼、やさしさも丁寧に描く。8代将軍の吉宗が、廃嫡すら噂された家重を後継に据えた理由も見えてくる。

昨年5月刊で、累計15刷5万8000部。読者層は30~70代まで幅広い。「徳川家の中でもあまり知られていない将軍を題材にした面白さがあって、新たな読者を獲得できているのでは」と担当編集者。家重の再評価を促す一作でもある。(幻冬舎・1980円)

海老沢類

産経新聞
2024年1月13日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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