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- 1日10分の哲学
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明治時代後半に消えた論争
さて、このような論争が明治半ばに起こったのはいいが、それ以降はそれが消えてしまう。文学者にかぎらず、政治家どうしでも、学者のあいだでも、論争が消える。一体、明治の後半、何があったのか。
よく言われることだが、明治の歴史は大逆事件を機に大きく変わったという。この事件は幸徳秋水らの社会主義者が天皇暗殺を企てたとされる事件で、首謀者ら26名は秘密裁判で大半が死刑判決を受け、そのうちの12名が実際に処刑された。これを機に政府は強圧的監視機関となり、日本はファシズム化していったのである。
もう一つの転機は日露戦争である。この戦争で日本は勝利したことになっているが、国情は悪化の一途をたどり、軍部が政治に口を出す一方で、社会主義者への弾圧が強化されていった。明治維新期にあった言論の多様性がなくなっていくのである。
言論の多様性がなくなるとは、議論や論争が不活発になることである。明治後半から昭和の戦争期に至る日本は本質的に変わるところがなく、変わっていったものがあるとすれば、意見の多様性を認めない度合いが増したことぐらいである。戦時中は言論の自由がなかったというが、実は明治後半からない。日中戦争や太平洋戦争は、大逆事件以来の政治の総決算だったのである。
現在の日本はどうだろう。議論はなされているか? 論争は?
「しても始まらない」という風潮が蔓延しているのではないだろうか。演劇にしても、映画にしても、基本的にドラマ性がないというのも、論争の面白みを国民が知らずにいる内に、時が流れてしまったことを示していると思われる。
そんなことを考えていて思い出されるのは、子どものころのテレビの風刺寸劇である。首相らしき人物が「自衛隊は我が国のホープじゃのう」と言うと、その秘書が「首相、お言葉ですが、ホープよりピースの方がおいしいのでは」というのがあった。昭和30年代のことである。これを思い出すにつけ、古(いにしえ)の中国の義人にならって、「ああ徂(ゆ)かん、命(めい)の衰えたるかな!」と言いたくなる。
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