なぜ、あの企業が選ばれ、利益を上げているのか? 企業成長の鍵を握る「戦略物流思考」―― 優良企業は物流で利益を追求する

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物流を取り巻く環境は急激に変化している。コロナ禍によるEC物流の拡大、国内の人口減少、人手不足、自然災害、そして多様化する消費者ニーズによる物流サービスの高度化など、その要因は枚挙にいとまがない。企業活動においても今後ますます重要性が増す物流を自社の経営戦略でどう位置付けていくか。物流現場を知り尽くす株式会社イー・ロジット代表の角井亮一氏が、企業成長の鍵を握る「戦略物流思考」について解説する。

※本稿は『顧客をつかむ戦略物流』(角井亮一 著)を一部抜粋・再編集しています。

物流は「コストセンター」ではない

現在、日本や世界の優良企業は、物流を「プロフィットセンター」としてとらえています。「プロフィットセンター」とは、利益とコストを集計し、利益を生み出す部門をいいます。それに対となるのが「コストセンター」であり、利益は生み出さず、コストが集計される部門です。つまり、優良企業は、物流をコストではなく、利益を追求する部門とみなし、競争優位を築いています。

では、プロフィットセンターのポジションを確立するためには、どうすればよいのでしょうか?

たとえば、アマゾンでは、当日配送サービスを提供しており、確実にエンドユーザーに届けるための物流構築を完成させ、他社との差別化をしています。ユーザーは欲しい商品がすぐに手に入るためアマゾンをリピート利用します。

これは一回の売上ではなく、LTV(顧客生涯価値ある顧客が自社と取引を開始してから終了するまでの期間にどれだけの利益をもたらしてくれるかを表す指標)やリピート率、顧客満足度を重視し企業の長期利益を考えたもので、まさにプロフィットセンターといえるでしょう。

こうした展開は、物流部門だけでは実現できません。企業戦略に物流を取り入れ、他部署との連携など全体最適を考えるからこそ実現できることです。物流を、単体の部署や機能の部分最適だけで考える時代は終わりを迎えています。他部門とも密につながり、さらには、ビジネスモデルを成り立たせることの重要性が高まっているのです。

品質や顧客満足度の向上、多品種少量の高速回転での製造・消費など、物流の役割が多岐にわたるいま、生産性向上を重視するコストセンターの強化に加えて、会社の競争力を高めるプロフィットセンター化も同時に達成しないといけません。

「物流」を部分最適するだけでは限界がある

物流をプロフィットセンターとして機能させるためには、物流を「物流思考」と「戦略物流思考」という概念でとらえる必要があります。「物流思考と戦略物流思考のどちらが重要か」と考えるのはナンセンスで、物流思考に戦略物流思考も加えて考えることが重要です。

物流思考は、物流とは作業であり、コストセンターであるという一般的な考え方です。つまり、「物流を生産性でとらえて、物流業務を行なう思考」といえます。

物流思考において、物流は生産性を上げてコストダウンをしようとします。コストダウンを図る方法としては、物流の個別単価を下げることです。たとえば、ピック作業のムダをなくす、梱包工程を自動化する、運搬距離を短くするなどの「部分最適」の積み上げです。

物流には、図のように「輸配送、保管、包装、荷役、流通加工、情報処理」といった6つの機能があります。


図:物流6大機能

部分最適とは、これら各機能の最適化を企業が図ることをいいます。このように物流思考は以前からある思考ですが、現在では物流思考だけでは、企業間競争に勝てなくなっています。

たとえば、経営トップや経営幹部がコストダウンの命令ばかりだと、物流担当者は、相見積もりをとったり下請け業者に掛け合ったりして何とかコストダウンを実現しようとします。現場でもコストが少しでも下がるように、各機能の工程を減らそうといった発想になります。

しかし、こうした発想では大きな改革はできず、現場は常に仕事に追われモチベーションが低くなり、さらなるコストダウンは難しくなります。そこで、物流思考に加えて「戦略物流思考」の必要性が高まっているのです。

物流を企業戦略から全体最適する「戦略物流」

戦略物流思考は、「物流を戦略としてとらえ、企業戦略に合う物流戦略を組み立てる考え方」です。物流をプロフィットセンターとしてとらえ、物流コストをかけることで、商品単価を上げたり、販売量を増やしたりして売上向上につなげます。

具体的には、多くの一般的な企業では、店舗を作ってから、コストや納品スピードに問題が出てきて物流拠点を作ります。しかし、米国のウォルマートや、日本のセブン-イレブンは物流拠点を作ってから店舗を作ります。こうした発想は、物流思考だけでは不可能です。コストを考えると、物流センターを先に作ることはありえないからです。

そこに、戦略物流8大機能が必要となります。前述の物流6大機能に「管理」と「調整」の機能を追加したのが、戦略物流8大機能です。

管理とは:
物流6大機能全体を管理します。管理することにより物流コストを計算して増減を把握し、理由を探求することでコストダウン、コントロールをしていきます。6大機能を見渡すことにより、倉庫は倉庫だけ、運送は運送だけといった相見積もりレベルでの業者変更にならないように倉庫拠点を持とうとか、配送方法を変えようといった発想につながります。

調整とは:
物流に関わる部門の間をとりもって、調整する機能です。たとえば、製造部門がまとめて生産するのがコストが安いので受注生産にしたいと思っていても、営業部門にとっては、生産に時間がかかることで競合に顧客が行く可能性が生まれるので、受注生産は避けたいと思うでしょう。これを自社の戦略に沿ってどうすべきか、製造部門と営業部門の間を調整します。

「販売戦略+物流戦略」で全体最適を目指す

戦略物流8大機能を駆使し、戦略物流思考を実現させていきます。

たとえば、カップラーメンの配送コスト効率を向上させる取り組みがありました。このとき、カップラーメンの形状を店頭での見映えのよい大きさからトラックに多くが積める小さな形に変えることによって、一度に運べる量が増え配送コストを減少させました。営業サイドは反発しましたが、物流コストを下げるべきという経営判断が働きました。こうした判断をするためには、全体最適の視点が必要になります。

米国のウォルマートや日本のセブン-イレブンが物流拠点を作ってから店舗を作るのは、店頭の欠品を極限にまで減らし、機会損失を防ぎ、商品の鮮度を上げることが実現できるからです。

しかし、これを実現するには、販売戦略と物流戦略を同期させることが必要です。同期していないと、物流拠点をどこに作るのか、どの程度在庫を保管するのか、店舗在庫が欠品しないようなタイムリーな配送をどう計画するのか、などがわからず、物流センターを作ることはできません。このように物流サービスのレベルの向上を考え全体最適をしていく発想が戦略物流思考です。

経営資源を活用するチャンスが眠っている物流は、今後ますます企業戦略に欠かせないものになっていくでしょう。「物流は『コスト』であり、最小化することに尽きる」という考えから、「物流は『プロフィット=利益』を生むものだ」という考えにシフトし、皆さんの会社の戦略・戦術をよりよりものにしていただければと思います。

角井 亮一(かくい りょういち)/株式会社イー・ロジット代表
1968年生まれ。上智大学経済学部経済学科を3年で単位取得終了し、渡米。ゴールデンゲート大学MBA取得(マーケティング専攻)。帰国後、船井総合研究所入社。その後、不動産会社を経て、光輝グループ入社。物流コンサルティングおよびアウトソーシングの分野で活動。2000年株式会社イー・ロジット創業。物流全般のコンサルティング・セミナー活動等を行なう。日本物流学会理事。著書に『図解 基本からよくわかる物流のしくみ』(日本実業出版社)、『EC物流の動向と仕組みがよ~くわかる本』(秀和システム)、『すごい物流戦略』(PHP研究所)など多数。

角井 亮一(かくい りょういち)/株式会社イー・ロジット代表

日本実業出版社
2024年3月14日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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