『民主主義を疑ってみる 自分で考えるための政治思想講義』梅澤佑介著

レビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

民主主義を疑ってみる

『民主主義を疑ってみる』

著者
梅澤 佑介 [著]
出版社
筑摩書房
ジャンル
社会科学/政治-含む国防軍事
ISBN
9784480076038
発売日
2024/02/08
価格
1,320円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『民主主義を疑ってみる 自分で考えるための政治思想講義』梅澤佑介著

[レビュアー] 櫻川昌哉(経済学者・慶応大教授)

公共利益取り入れ再構築

 民主主義とは、形式的に言えば、社会の構成メンバーが平等に政治参加できる仕組みであるが、我々は民主主義についてどれほど知っているのだろうか。

 「疑ってみる」と表題にあるように、民主主義を無条件に肯定し、無批判に受け入れることに警笛を鳴らす書である。

 政治思想の専門家らしく、著者はまず、ソクラテス、ロック、ルソーなど歴史上の巨人を俎(そ)上(じょう)に載せて民主主義を論じていく。ここから民主主義を相対化する旅が始まる。彼の手法は、自由主義、共和主義、社会主義など代表的な政治思想のレンズを通して、民主主義を洗い直していくことである。

 自由主義と民主主義はセットで語られることが多いが、両者は必ずしも相性がいいわけではないと説く。あるところまでは自由主義が民主主義を拡大させ、また民主主義が自由主義を拡大させることは事実であろう。しかし、私的な利益を重視する自由主義は、ポピュリズムの台頭や政治的無関心の蔓(まん)延(えん)を引き起こし、民主主義を自壊させかねないと注意を喚起する。冷戦の終結で共産主義に勝利したはずの“リベラル・デモクラシー”が行き詰まったのは偶然ではないと説く。

 著者は、自由主義の弱点を補うものとして、公共の利益を重視する共和主義の考え方に期待を寄せる。意見の質の違いを問わない民主主義の弱さを補うべく、専門知にもとづく質的差異を認める共和主義を取り入れることが、民主主義に延命の機会を与えると主張する。

 民主主義が機能するためには、民主主義的な“精神”を外部から取り入れる必要があると説く。民主主義とは“フカヒレ”みたいなものかもしれない。うまく調理すれば絶品ともなりえるが、それ自体には味も香りも無い。そして調味料となるのが、自由主義、共和主義、社会主義の考え方であると説く。民主主義の復旧と再構築を目指した意欲的な書である。

 政治が迷走するなか、民主主義、個人の自由、公共の利益の三者の関係について少しばかり考えてみたいと思う読者にとっては格好の書である。(ちくま新書、1320円)

読売新聞
2024年4月12日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク