「血圧高め」と言われたら…危険な病気にならない減塩のコツを、聖路加国際病院の医師が解説

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自覚症状がほとんどない高血圧は、「サイレントキラー(静かなる殺人者)」との別名も

 健康診断で「血圧高め」と診断されても、すぐに生活習慣を改める行動に移すほどの人は少ないでしょう。その理由は「高血圧」が他の病気と違い、「痛い」とか、「だるい」といった症状が出ず、日常生活に支障や影響がほとんどないことにあるのではないでしょうか。

「何の症状も出ないのであれば、“高血圧”なんて、ほうっておけばよいのでは?」と考える人もいますが、そこが「高血圧」の恐ろしいところです。

 放置しておくと様々な疾患に繋がります。一体どんな病気を引き起こすのか?

 聖路加国際病院の医師と管理栄養士による、実際の患者さんからの意見を取り入れた高血圧の人のためのレシピ本『医師と管理栄養士が考えた おいしく食べる高血圧の減塩レシピ』(新星出版社刊)から一部抜粋、再編集して、高血圧の恐ろしさや放置した場合の病気、そして血圧を下げるための減塩のポイントなどを紹介します。

高血圧は無症状で進行し、動脈硬化を引き起こす

 私たちの体に流れる血液は、心臓がポンプのように収縮と弛緩を繰り返すことで、全身に送り届けられています。「血圧」とは、血液が心臓から送り出されるときに、血管の内側にかかる圧力のことです。心臓から拍出される血液の量と、それに対する全身の血管抵抗で決まります。

 血圧は心臓が収縮しているとき、つまり血液を送り出す際にもっとも高くなり、一般的に「上の血圧」(最高血圧)と言われます。逆に心臓が拡張しているときはもっとも低くなり、「下の血圧」(最低血圧)と言われています。

 血圧は、正しい方法で7日間、少なくとも5日間測定し、その平均が、上の血圧で135mmHg以上、または下の血圧で85mmHg以上だと高血圧だとみなされます。

 一般的に高血圧は無症状で、特に初期に症状が出ることはほとんどありません。発汗の増加や顔の赤み、目のかすみなどが現れることもありますが、それらは高血圧以外の原因でもみられるため、症状から高血圧を推定するのは難しいのが実情です。

 しかし、自覚症状がないからといって高血圧を放置するのは危険です。気づかぬうちに全身の血管が少しずつ障害されてさまざまな合併症を引き起こし、最悪の場合は命にかかわるような事態になることもあります。それゆえ、高血圧は「サイレントキラー(静かなる殺人者)」とも呼ばれています。

 高血圧の一番の問題は、動脈硬化を引き起こすことです。血圧の高い状態が長く続くと、動脈の血管壁が傷つきます。すると、悪玉コレステロールなどが付着しやすくなり、内腔(血管の内側)がどんどん狭くなって、詰まることもあります。このような状態になると、臓器や組織が血流不足になり、全身に十分な栄養や酸素が行き渡らなくなります。

動脈硬化の影響は脳や臓器に現れる

 動脈硬化は全身のあらゆる血管で起こるため、悪影響は全身に及びます。中でも特に障害されやすいのが、心臓や脳の血管、大動脈および末梢血管、腎臓、網膜などです。

 心臓では、血流が妨げられることで起こる狭心症や血管の詰まりが原因の心筋梗塞、心臓の働きが低下する心不全などを引き起こします。

 脳であれば脳梗塞や脳出血、くも膜下出血などの脳卒中を招きます。また、腎臓では血液不足から腎臓自体が小さく萎縮してしまう腎硬化症や、腎臓本来の働きがほぼできなくなる腎不全などの要因になることもあります。

 このように、生命活動に重要な臓器の疾患につながるのが、高血圧の怖いところです。高血圧を治療せずに放置した場合、高血圧患者の約半数は心不全や冠動脈疾患などの心臓の病気となり、約3分の1は脳卒中、10~15%程度は腎臓の病気で死に至るとされています。

 自覚症状が出ていないからといって放置せずに、必ず適切な治療や生活習慣の改善を行いましょう。

日本人の1日あたりの食塩摂取目標量は男性7.5g未満、女性6.5g未満


【図1】塩分の摂りすぎは血圧を上昇させる

 みそやしょうゆなどの発酵調味料、漬け物や塩魚などの日本食は、塩分高めのものが多い傾向にあります。日本人の1日あたりの食塩摂取目標量は男性7.5g未満、女性6.5g未満(日本人の食事摂取基準2020より)と言われているのに対し、現状の平均値は9~11gと高く、高血圧のリスクが高いことを示唆しています。誰もが高血圧の予備軍といっても過言ではないでしょう。

 図1のように、塩分を多く摂ると喉が渇き、自然と摂取する水分量も多くなって、ひいては腎臓や心臓に負担がかかり、血圧が上昇していきます。逆に言えば、塩分を減らすことによって各部位の負担が軽減されるのです。高血圧の治療では、患者さんの状態や持病により医師が判断し、食事療法(栄養指導)に入ったり薬が処方されたりします。減塩はどちらにおいても大事で、薬を飲んでいるからと安心していては、かえって体に負担がかかることもあります。薬の効果を最大限に引き出すのも、減塩による食事療法なのです。

 減塩によって体内に好循環が生まれるだけでなく、実感を覚える現象もあります。摂取する水分量が減っていくため手足のむくみが少なくなったという方は多く、体が軽くなり肌艶がよくなったという方もいました。また、医学的には骨粗しょう症や結石のリスクが軽減されるという研究結果も出ています。

宮田宏太郎(ミヤタコウタロウ)
聖路加国際病院循環器内科。1985年生まれ、2010年杏林大学医学部卒業、2010年から国立病院機構東京医療センターで初期研修の後、循環器科で後期研修(2010~2012、2012~2015)。心臓血管研究所付属病院で循環器内科レジデント(2015~2018)東京逓信病院循環器内科(2018~2020)聖路加国際病院循環器内科(2020~)。日本内科学会 総合内科専門医 日本循環器学会 循環器専門医。

星穂奈美(ホシホナミ)
聖路加国際病院 管理栄養士。2017年3月管理栄養士養成課程卒業後、一般財団法人太田綜合病院附属太田西ノ内病院栄養部に入職。2021年12月より学校法人聖路加国際病院栄養科にて勤務。病態栄養専門管理栄養士、心不全療養指導士。

宮田宏太郎(聖路加国際病院循環器内科)/星穂奈美(聖路加国際病院 管理栄養士)/イメージ画像:Shutterstock/イラスト:藤原未央/料理撮影:斉藤純平

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2024年5月15日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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