『聖なる怠け者の冒険』
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明文堂書店石川松任店「努力・勤勉型主人公ばかり持て囃すな!」【書店員レビュー】
[レビュアー] 明文堂書店石川松任店(書店員)
大冒険よりも小冒険を愛する小和田君の前に現れたのは、虫喰い穴のあいた旧制高校のマントに身を包み、ステキにかわいい狸のお面をつけ、善行を続ける怪人《ぽんぽこ仮面》だった。ぽんぽこ仮面は、小和田君にたびたび接触をはかり、ぽんぽこ仮面の跡を継ぐように迫っていた。しかし頑固で怠け者の小和田君はその誘いを断り続けていた。
正義と冒険という普遍的な面白さを怠惰と妄想と不可思議さで包むと、『聖なる怠け者』ができあがる。書かれているのは未知の世界のはずなのに、泣きたくなるほど懐かしくも感じる。それはきっと筆者が学生時代を京都で過ごしていたこととは無関係である。もっと根源的な、物語の原風景に接したような感覚だ。でもまったく新しい世界が描かれているような気もする。大袈裟かな。大袈裟かも・・・・・・。いや、大袈裟ではないはずだ。
小和田君は異色だが、魅力的な主人公である。大人になるにつれて無くなっていく(あるいは口に出せなくなる)怠け心をいつまでも持っている青年である。《主人公だから頑張らなければいけないなんて、いったい誰が決めた?》そうだ、そうだ。もっと言ってやれ!
努力・勤勉型主人公ばかり持て囃すな!