そのうちやろう断捨離、いつか目指したいシンプルライフ――人の振りみて直せるものなら直したい!

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老いと収納

『老いと収納』

著者
群 ようこ [著]
出版社
KADOKAWA
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784041046128
発売日
2017/01/25
価格
562円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

人の振りみて直せるものなら直したい!

[レビュアー] 藤田香織(書評家・評論家)

 昨年末、大掃除の手伝いに来てくれていた母に、「もうっ! 使ったらすぐ元の場所にしまいなさいって、いつも言ってるでしょう!」と叱られた。四十八歳にもなる娘が脱ぎ散らかした服を黙々と拾い集めていた七十三歳の母の胸中には、愚痴や憤りや不満(そして不安)がぐるぐると渦巻いていたのだろう。申し訳ないことに、ちょっと涙目にもなっていた。確かにいつもそう言われているのだ。それも四十年以上前から、ずっと。

「何かを欲しいと思ったら、それが本当に必要かどうかよく考えてから買いなさい」「一着買ったら二着、一足買ったら二足処分しなさい」ご尤もです。そうしたいです。いらない物は分別して捨てよう。必要なものはしかるべき場所に片付けよう。それをきちんと整理して活用しよう。その気はあるのだ、いつだって。でも、だけど。どういうわけだか物欲を抑えることはままならず、整理整頓のやる気スイッチは見つからない。そのうちやろう断捨離。いつか目指したいシンプルライフ。そして今日も、読み終えた雑誌を部屋の片隅に積み上げて終わるのである。

 二〇一四年に刊行された『欲と収納』に連なる本書『老いと収納』は、そうしたスッキリできない女たち(どさくさに紛れて複数形に)にとって、実に身につまされるエッセイ集だ。

 まずは、捨てたい、片付けたいと思いながらも先延ばしにしてきた雑多な物たちに、筆者である群さんがついに重い腰を上げ立ち向かう。きっかけはマンションの大規模修繕工事が決まり、ベランダに置いてあるものを撤去し掃除すべし、とのお達しがあったことだった。期日までに少しずつ処分、なんて絶対無理。〈それができていれば、こんなに不要品が溜まるわけがない〉

 腹を据えた群さんは、これを機に業者へ不要品の引き取りを依頼し、回収日を一ヶ月後に決定。早速仕分けに取りかかる。十数年前に小さかった飼いネコの危険防止のためにベランダに張った金網。倒壊し、使い物にならないまま放置していた折りたたみ式の物干し場。〈壊れたレーザーディスクプレイヤー〉〈「ドデカホーン」という大きなラジカセ〉といった記述に、ついつい我が家の放置家電「おたっくす」に目をやってしまう。うちにもあるある〈古いスキー板〉、そういえばうちも五年以上動かしていない〈空気清浄機〉。壊れたり使い物にならなくなっていた物だけでなく、長年、あたり前のようにそこにあったため、目につかなくなっていた不要品も見極めていく。

 章の最後に記された処分品リストを見ていると、これを並べたら独り暮らしの学生の部屋ならイッパイになってしまうのでは? と笑えてくるが、同じ作業を自分がしたら、と想像すると恐ろしくなる。もうほんと、他人事とは思えない。

 片付け話だけではない。自分の手に余る大型の不要品処分を弾みに、衣類、肌着、靴やバッグに化粧品などの整理に邁進していくなか、群さんがこぼす「実感」に、ほほう、なるほど……、へぇ、そうなのかー、と何度も相槌をうってしまう。若い頃は平気だった厚手のウールコートが重くて着られなくなったこと。衣類だけでなく靴にもその傾向があること。歳を重ねるうちに変わるのは髪質や肌感や容姿だけでなく、好みも考えも変わっていく。薄々分かっていることもあるけれど、言われてみなければ気付かないことも実はかなり多い。着物や本といった、群さんにとって大切な、愛着のある物への整理基準を読んでいると、自分の心の奥底にある「執着」という魔物と対峙する勇気も不思議と湧いてくるのだ。

 さらに「こんなふうに暮らしたい」の章は、魅惑的なブックガイドにもなっている。読んでみたい! と思わせる引用と考察のバランスが絶妙で、困ったことにまた本が増えてしまった。

 部屋の整理はままならずとも、とっちらかった心の中の風通しは、きっと良くなると確約します。

 ◇角川文庫◇

KADOKAWA 本の旅人
2017年2月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

KADOKAWA

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