万城目学×京極夏彦「消えゆくものから生まれた物語」〈『パーマネント神喜劇』刊行記念対談〉

対談・鼎談

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

パーマネント神喜劇

『パーマネント神喜劇』

著者
万城目 学 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784103360124
発売日
2017/06/22
価格
1,430円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

消えゆくものから生まれた物語

枚数の計算が合わない!?

万城目 京極さんは小説を書く時、最後まで決めて書かれていますか?

京極 きっちり決めます。枠があって、着地がずれるということはまずないですね。ただ、スケール感を間違って長くなっちゃうんですよ。

万城目 僕も最初に設定したところから逆算して物語を動かしていくんですが、常に枚数を見誤っています。これ位の枚数で書けると思っていざ書いたものが、大体倍になっちゃう。

京極 僕も同じですね。倍はないけど(笑)。ただ、万城目さんの小説をうらやましく思うのは、書き放題“感”が内包されているところですね。この設定でこれって幾らでも書けるじゃんという、つまりいつまでも読めるじゃんというわくわく感があるわけ。もちろん、最後はきちんと回収されちゃうんだけれど、期待はしちゃうんですね。ああ帰ってきちゃったと、少し残念になります。

万城目 そのラストでの回収は、最初に決めたとおりに落ち着けたいんです。

京極 『バベル九朔』なんかも、どこまで昇っても部屋が終わらない、「何回目なんだよ、ここ」みたいな無限ループ感が心地良いわけ。あの小説はあの形で完成しているんだと思いますが、読んでる途中ではもっとどこまでも行って、行き切ってくれという気持ちになりましたけどね。

万城目 途中で方向転換できないんですよ。途中までうまいこと膨らんでいると思っていても、その半年前に書き始めた時に考えた終わり方にしないといけないと思っちゃうんですよね。そういう部分は柔軟性がないですね。

京極 僕も似たような体質なんだけど、小説は何でもありなんだから、むしろ着地なんて考えなくていいんじゃないかと最近は思います。『バベル~』はただ単に設備チェックしてるシーンとか、変な店の描写とかがとても面白かったです。

万城目 実際に雑居ビルの管理人をしていた時の作業を書いたりしたので、自分としては面白さの価値が低いような気がするのですが……。

京極 どうでもいいようなことを面白く書くのが小説じゃないですか。元々面白いことは小説にしなくたって面白いんだから。そういう意味でも、すごく楽しめました。日常の変奏を繰り返してどこまでも連れてってくれそうな気持ちにさせてくれるところが魅力の一つでした。

万城目 本当に光栄です。

京極 スタイルは裏返しなのに、作り方は似ているんですね。だから、僕が力及ばずして到達できないようなところに向かっている感じがするのかもしれない。そのへんもうらやましいなと思います。

万城目 頑張ります。まさかこんな言葉をかけていただける日が来るなんて……。

京極 こういう小説があったらいいなと、僕がずっと思っていたような作品が、ここ数年ぽつぽつ出て来ているんですね。万城目さんもそうした書き手の一人です。読み手としても書き手としても期待をしています。どんどん活躍してください。

万城目 ありがとうございます。京極さんがそれまで誰も物語に組み入れようとしなかった題材を取りこみ、一気に物語の幅を広げてくださった後にデビューしたおかげで、かなりやりやすくなったと思います。僕もその京極さんが切り拓いてくれた道のはしっこを歩かせてもらっているので。

京極 万城目さんが切り拓いた道の後ろからついて来る人たちも次々にやって来ると思いますけども。

万城目 頑張ります! それで、一つお願いがありまして……。新刊のとあるシーンみたいになっちゃいますが、後でサインください(笑)。

新潮社 波
2017年7月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク