万城目学×京極夏彦「消えゆくものから生まれた物語」〈『パーマネント神喜劇』刊行記念対談〉

対談・鼎談

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パーマネント神喜劇

『パーマネント神喜劇』

著者
万城目 学 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784103360124
発売日
2017/06/22
価格
1,430円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

消えゆくものから生まれた物語

p006
左から万城目学さん、京極夏彦さん

万城目 僕は大学生の時に『姑獲鳥の夏』を友人から、「めっちゃ面白いから、とにかく読め」と言われて、読みました。まさかこんな形でお会いできる日が来るとは思いませんでした。

京極 いや、僕も万城目さんの作品はエッセイ以外は恐らく全部読んでますからね、今日は一読者として緊張しています。

万城目 なんと……。ありがとうございます! 大学の時に読んで、とにかく分厚さに驚いたんですけれども、人間がこんなことを、こんな分厚いボリュームを使って論理的に物を考えられるのかと圧倒されました。

京極 下手だから長くなるんですよ。でも、万城目さんみたいな書き方は僕にはできないだろうから、ちょっと憧れますけどね。

万城目 え、どのあたりがですか?

京極 たとえば、僕は「お化けの人」と思われてるわけです。現在、この版元で書かせてもらっている作品(週刊新潮連載「ヒトごろし」)なんて、まるでお化け関係ないんですが、それでもお化けが出てるみたいな印象で受け取られてます。でも、僕の小説にそもそもお化けは出て来ませんからね。お化けのことは書いてあるけど、作中にお化けはほぼ出て来ないんです。それなのに「おまえは化けもの係だろう」ぐらいの勢いで。そういうイメージがついているんですね。

万城目 そうですか(笑)。

京極 僕の名刺の肩書きには「お化け担当」と書いてあるらしい。万城目さんにはそんなイメージはないですね。でも『鴨川ホルモー』には、人間じゃないものが当たり前のように登場してますよね。

万城目 出て来ますね。

京極 すごいと思う。僕のやり方だとあんな自然に出せないんですよ。

万城目 そう……ですか?

京極 そのへんのことをお伺いしたかったんですが、『鴨川ホルモー』にしても、『鹿男あをによし』にしてもそうなんだけど、万城目さんは別に、人間じゃないものを書きたいわけではないでしょう?

万城目 本当は出したくないんです。

京極 やっぱりそうですよね。

万城目 入れずに同じ話を作れたらいいんだけど、その能力がないと自分では思うんです。入れた方がスムーズに面白い展開に持って行けるので、また今回も出してしまったみたいな……。

京極 万城目作品は人知を超えたものを道具にしているだけだと思ってました。お化けはガジェットというか、一つの装置として作中で機能しているんですよね。それも、ストーリー展開上で必要だ、というような単純なものではなくて、それがあることによって生じるフェイズのズレのようなものが、見えにくいものを浮き彫りにしちゃうというか。だって『鴨川ホルモー』を普通の大学サークル小説として書いたら、逆に恋愛小説にはならないでしょう。

万城目 そうですね。

京極 それ、お化けの正しい使い方なんですよ。妖怪というのは何かを表したものなんだから、フィクションに起用するならそれによって何か別のものを表すべきだと思う。妖怪自体を表してしまったら、もうそれは妖怪キャラが出て来るだけの小説でしかなくて、その場合多くは妖怪である必要のないキャラ小説になっちゃう。僕はお化けを出さずに、お化けの周辺を描くことで妖怪を表そうとしてるんですね。万城目さんはお化けを出すことによってお化けじゃないものの説明をしているのじゃないかしら。

万城目 確かにそうかもしれないです。

京極 だからスタイルとして万城目さんと僕は裏返しみたいな感じになっている。そこが、すごく面白く感じる。

万城目 僕はお化け的なものを書くことに関して、意識の中であまり境界線がないんだと思います。ただ、お化けが見える環境や能力を得て、登場人物が喜ぶような展開にはしないことにしています。多分そうすると読者はみんな白けちゃうだろうから。

京極 そんなもの見えても、普通嬉しくないですからね。

万城目 そうなんですよ。だから、そういう存在のはた迷惑さを物語の中でずっと維持する感じにしようかなと。

京極 大体お化けなんていないですからね。いないんだけど、いることにしておくというお約束なんですね。そのお約束によって何かを表現する、共有する、生きやすくするという文化的装置でしかない。万城目さんはそれをそのまま作品に応用しているわけだから、極めてリアルな小説だと僕は思いますけどね。

新潮社 波
2017年7月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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