燃え殻×大槻ケンヂ 大人にだってフューチャーしかない/燃え殻『ボクたちはみんな大人になれなかった』刊行記念対談

対談・鼎談

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ボクたちはみんな大人になれなかった

『ボクたちはみんな大人になれなかった』

著者
燃え殻 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784103510116
発売日
2017/06/30
価格
1,430円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

【燃え殻『ボクたちはみんな大人になれなかった』刊行記念対談】燃え殻×大槻ケンヂ/大人にだってフューチャーしかない

[文] 新潮社

90年代に出会った強烈な彼女との恋愛を描いたデビュー作が話題の燃え殻さん。小説を書くきっかけとなったという、大槻ケンヂさんと初対面! いまだ鮮やかで痛々しい沼のような「あの頃」と、そこから這い上がって生きていく「これから」のことを語りました。

 ***

燃え殻さんと大槻ケンヂさん
燃え殻さんと大槻ケンヂさん

「アイタタタ」な恋愛を超えて

燃え殻 最初からお恥ずかしい話なんですが、僕、本って家に10冊くらいしかないんです。そんな自分が小説書いたなんて、大槻さんの影響でしかなくて。

大槻 そうなの? 何しちゃったんだろ。最初に謝ります、ごめんなさい(笑)。

燃え殻 いやいや、20代で初めて大好きになった女の子が大槻さんの信奉者で、デートは「青山墓地に文豪のお墓参りに行こう」とかいう子だったんですよ。

大槻 わっ、それ僕エッセイに書いた。寺山修司の墓参りみたいな? もう本当にごめんなさい。

燃え殻 謝らないでください(笑)。その子の影響で大槻さんの本を読むようになって、その中に中島らもさんの本も出てきたんですよね。

大槻 『ボクたちはみんな大人になれなかった』の中にも、らもさんの『永遠も半ばを過ぎて』が出てくるね。

燃え殻 今でも僕は大槻さんの本と、らもさんの本を繰り返し読む人間なんです。

大槻 燃え殻さんの小説、生きづらい若い人たちが抱えている、共通の寂しさとか執着とかが書いてあるなあって。僕は世代が上だけど、読んでてちゃんと「アイタタタ」ってなったよ。基本的にサブカル恋愛って痛いよね。

燃え殻 僕は大槻さんの『のほほん雑記帳』を読んだ時にそう思いました。主人公二人が別れるシーンあるじゃないですか。一緒にベンチに座っていて、彼女が「今週の『サザエさん』みた?」って唐突に言うんですよね。その週は波平とフネが「お父さんお母さん、たまには梅でも見にいきなよ」ってカツオに言われて、水戸に梅を見に行く回なんです。

大槻 男女が付き合う上で生じるウェットな部分を早く超えて、そういう枯れた関係になってしまえば、私たちも別れたりなんかしなくてよかったのにねって彼女が言う、みたいなシーンですね。

燃え殻 僕その時はまだ童貞で、誰の手も握ったことなかったのに、「わかる!」って思いましたもん。

大槻 それ、わかってないよ!(笑)

燃え殻 そう、わかってなかった。

大槻 まあ僕の本の話はいいんですよ。でもそう言えばこの間、新聞のラテ欄で『サザエさん』見たらね、えーと、誰だっけ? カツオ……ワカメじゃない……。

燃え殻 大槻さん、タラちゃんがどうかしたんですか?(笑)

大槻 あ、タラちゃん! あのね、ラテ欄に「タラちゃん空気を読む」って書いてあったの。あれ、どういうこと?!

燃え殻 知りませんよ!(笑)

大槻 サザエさんでさえこうなんだから、時代って変わるんだね。よく聞かれると思うんですけど、この小説はどのくらい本当のことを書いたんですか?

燃え殻 ブスな彼女に文通で出会ったのも、いきなりフラれたのも、最後のセリフが「今度、CD持ってくるね」だったのも、エピソードは全部本当です。本にする時、セリフや構成はもっと普遍性のあるものに変えたつもりなんですけど。

大槻 普遍的な青春小説でもあるけど、サブカルヤング恋愛あるあるみたいなとこあるよね。まず女の子が「仲屋むげん堂」でバイトしてるとこから、もう! みたいな(笑)。彼女と行ったむげん堂のカレー屋って、南口の坂下ったとこ?

燃え殻 あの螺旋階段があるお店です。

大槻 俺もあそこ何度行ったか分からない。高円寺で一番おしゃれな店だった。ていうか、あれが高円寺の限界だった。

燃え殻 あれ一番おしゃれだったんですか(笑)。僕は『リンダリンダラバーソール』も大好きなんですけど、ヒロインのコマコはモデルっているんですか?

大槻 『リンラバ』のコマコね。あれは特定の誰っていうより、あの頃いたサブカル好きな女の子たちの象徴なんだよね。

燃え殻 僕の小説も彼女のモデルはいるんですけど、その細部は僕が“まだ何者でもなかった時に出会った女の子たち”の集合体なんですよね。

大槻 だからみんなガーンッてくるんじゃないかしら。個人的な記憶を呼び覚ましてしまう装置みたいな本だよね。

燃え殻 大槻さんやらもさんの小説で、狂乱な人生にふとロマンチックが差し込まれるあの感じ、どこまで本当か分からないプロレスみたいな感じがすごく好きで。自分が書くんだったらそういうものを書きたいなとは考えていました。そういえば彼女とも、小田原の駐車場にW★INGの松永対レザーフェイスの釘板デスマッチ一緒に観に行ったりしたなあ。

大槻 またもやアイタタタ!(笑)

燃え殻 大槻さんが出たプロレス大会も観に行きましたよ(笑)。川崎球場でしたっけ、ブルーハーツも出てたんですが。

大槻 え、それ佐賀の鳥栖じゃない?! パンディータ対バルタン星人とか気の狂ったマッチメイクだった気がする。

新潮社 波
2017年9月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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