渕書店 BOOKSTORE FUCHI「すごい・・。感動したヨ!誰かに明るく話す気にはなれないけど。」【書店員レビュー】

レビュー

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ボクたちはみんな大人になれなかった

『ボクたちはみんな大人になれなかった』

著者
燃え殻 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784103510116
発売日
2017/06/30
価格
1,404円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

渕書店 BOOKSTORE FUCHI「すごい・・。感動したヨ!誰かに明るく話す気にはなれないけど。」【書店員レビュー】

[レビュアー] 渕書店 BOOKSTORE FUCHI(書店員)

 読み終えてしまうと寂しくなるかもと思わせるような小説。なんでもツイッターで配信されたものがカタチになったということ。童貞でベルコンに乗ったエクレアをただ詰め込むだけという工場勤めをしている主人公。「社会の数にカウントされてなかった(本文)」不甲斐ない感じの青春時代に求人情報誌の文通欄を通じて容貌のさえない、いわゆるブスである一つ上の女性と出会う。「好きな人ってなんなの?って思って生きてきた」といとも簡単に口にする彼女を主人公は好きになる。ラブホテルの浴槽に浸かりながら地球の絶滅への願いをため息交じりに言える本当の自分をさらけ出せる関係。著者が想いを必要以上にこめていると読者から見破られることのない飾り気のないそれでいて滴るような情感に溢れた言葉たちで綴られている。小沢健二であるとかWAVE(昔あったレコード店)とかホットドックプレス(雑誌)とか、ツイッター、恋するフォーチューンキッキーであるとか時代を感じさせるアイコンとして機能する固有名詞が全編に散りばめられていて、その時代を通り過ぎた主人公と同じ年代の読者には思い入れが持ちやすく他の世代よりも共感度もかなり違うかもしれない。主人公の青春ははかなくて寂しいものだが読者に正直さゆえになんとも言えない安心感を与えるし、まずそれは主人公を支える世界でたったひとつの揺るぎない愛が描かれているからだろうと思う。時の流れが人の外見・立場を変えるがその一方で内面を変えないと仮定したら、その真実を凡庸でない説得力で物語は放つというより洩らす。夕暮れの光景の美しさが物語に置き換えられたような読後感。せっかく才能に恵まれいるのになんだか全部出した、という感じだと思いました。騙されているとしたらそれはそれで嬉しいです。

トーハン e-hon
2017年9月30日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

トーハン

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