【聞きたい。】海猫沢めろんさん 『キッズファイヤー・ドットコム』

レビュー

5
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キッズファイヤー・ドットコム

『キッズファイヤー・ドットコム』

著者
海猫沢 めろん [著]
出版社
講談社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784062206747
発売日
2017/07/26
価格
1,404円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

【聞きたい。】海猫沢めろんさん 『キッズファイヤー・ドットコム』

[レビュアー] 産経新聞社


海猫沢めろんさん

 ■常識揺さぶるIT子育て革命

 作家デビュー前にはホストも経験。保育園に預ける幼いわが子を抱きかかえながら朝の満員電車に揺られたこともある。そんな自らの実感が投影された、ユーモラスで一風変わった“イクメン小説”だ。

 「お父さんが頑張って子育てをする!-という小説はたぶんいっぱいあって、僕が書く理由はない。今までとは違う子育ての形を提示したいなと」

 歌舞伎町のホストクラブ店長・白鳥神威(かむい)を自宅前で待ち受けていたのはベビーカーに乗せられた見知らぬ赤ちゃん。ポジティブ思考の神威は自分で育てる決意をし赤ちゃんを店のキャストに加える。だが、女性客は離れるし、1人での育児は苦難の連続。事態打開のため、神威は元ホストのIT社長とともに《KIDS-FIRE.COM》というサイトを開設する。子育て資金を広く募り、その金額に応じて子供の動画閲覧権などの特典を与える-。クラウドファンディングを活用した「子育て革命」の提唱だった。非人道的との批判でサイトは炎上。だが次第に神威の意外な出自も明かされていき、子育てや家族について抱いていた常識が揺さぶられる。

 「世の中の価値観に疑問を持っていても、いざ子供が生まれると常識に合わせなきゃいけないことは本当に多い。でも愛情や血縁もない家族というのも実際にあるかもしれないし、あってもいいとも僕は思うんです。それで気持ちが楽になる人だっているだろうし」

 保育制度の不備、広がる世代間格差、ネットの伝播(でんぱ)力…。その後の赤ちゃんの成長を追ったもう一編の収録作と合わせ、日本の現在と未来を照らし出す。

 「思想も政治もテクノロジーも…純文学を読むことで世の中が大体分かる時代がかつてあったと思うんですよ」と言葉に力を込める。「そういう全体性のある小説を作りたい。それで物語としても面白かったら最強じゃないですか」(講談社・1300円+税)

 海老沢類

  ◇

【プロフィル】海猫沢めろん

 うみねこざわ・めろん 昭和50年、大阪府生まれ。平成16年に『左巻キ式ラストリゾート』でデビュー。ほかの著書に『ニコニコ時給800円』など。

産経新聞
2017年9月10日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

産経新聞社

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