【対談】ビートたけし×又吉直樹 男と女は会った瞬間が一番いい〈『アナログ』刊行記念〉

対談・鼎談

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アナログ

『アナログ』

著者
ビート たけし [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784103812227
発売日
2017/09/22
価格
1,320円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

男と女は会った瞬間が一番いい

[文] ビートたけし又吉直樹(お笑い芸人・作家)

お笑いとの戦い

又吉 たけしさんは、何をされている時が一番幸せなんですか?

たけし やっぱり自虐的なゴルフだね。

又吉 それはなんですか?

たけし ガッと打って「あ~OBかよ」「畜生、また入んねえ」「帰りの道混んでやがる」っていう(笑)。もう自虐的なのが楽しいね。

又吉 へえー!! うまくいくことが幸せではないんですか。

たけし うまくいかないのが嬉しいね、意外に。料理屋行っても「まずい」「こんな値段取んのかよ」とか、とにかくひどい目に遭った自分が好きなんだよね。その分だけ悪口で稼いでやろうと思っちゃう。浅草行って芸人になろうとした時に、自虐的な方が面白いと思ったんだよな。売れなくて、酒飲んで死んでいったとしても漫才だよなって。終わりから考えちゃうようなとこあるんだよね。死に場所を見つけた、みたいに思ったところがあったのかもしれない。

又吉 たけしさんは小説を書く時も結末を考えてから書かれるんですか?

たけし 映画と同じで4コマ漫画みたいに起承転結を考えて、最後にこの画で終わるんだっていうのは決めてるね。

又吉 僕はまだ二作しかないんですけど、人物の関係性から考え始めて最後までは決めずに書いたんです。書きながら登場人物が言った言葉を自分なりに解釈していったりして。

たけし 俺はやっぱりお笑いと同じで、オチをつけたがるってとこがあるかもしれない。お笑いとの戦いだね。でもガルシア=マルケスの『族長の秋』を読んだ時に「なんか夢みたいだな」っていう読後感が好きで、そういう作品を自分でも書いてみたいって思ったんだ。

又吉 夢という話でいうと『アナログ』の作中人物の会話に、落語の「芝浜」が出てくるじゃないですか。もちろん話の構造は違うんですけど、「芝浜」を聴いてから『アナログ』をもう一回読むと面白いと思うんですよね。

たけし なるほどね。又吉さんの小説を読んだ時に「うわ、俺これ書けない」って思ってちょっとショックだったんだけど、これは書けると思っちゃいけないんだと思ったの。できないものを真似してもしょうがないし、変な言い方かもしれないけど、又吉さんに俺には上手い文学的表現はできないんだって教えてもらったというか。有り難かったね。俺はもっと単刀直入な、漫才とか落語表現なんかが得意だから、それでガンガン行こうかなと。きれいな装飾ができないんだったら、シンプルに書くしかない。だから自分なりの書き方を見つけられたのは又吉さんの存在があったからだね。だって芥川賞だよ、お笑いにとってもいいよ。「芥川賞作家、万引きで捕まる」とか人生使ってネタにもできるし。

又吉 芥川賞作家って確かにフリになりますもんね。

たけし そうそう、だから俺偉くなりたいのよ。文化勲章とかもらった後に立ち小便で捕まったりしたら、いいじゃない。

又吉 幸せな自虐タイムですね。

たけし やっぱり最後はオイラ、そういうお笑い的発想になっちゃうんだ。

又吉 こんなにたけしさんとゆっくりお話できることはないので、最後は立ち小便の話でしたけど(笑)、今日は光栄でした。

たけし 『波』読者の皆さんも『アナログ』買ってくださいね、ゲラを読んだ人がガンが治ったりですね、家出をした女房が帰ってきたり、子どもが東大に受かったなどいいことずくめです。

又吉 読者の皆さん、あくまで個人の感想です。

新潮社 波
2017年10月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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