【聞きたい。】伊集院静さん 『琥珀の夢 小説 鳥井信治郎 (上)(下)』

インタビュー

1
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

琥珀の夢 上 小説 鳥井信治郎

『琥珀の夢 上 小説 鳥井信治郎』

著者
伊集院 静 [著]
出版社
集英社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784087711233
発売日
2017/10/05
価格
1,728円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

【聞きたい。】伊集院静さん 『琥珀の夢 小説 鳥井信治郎 (上)(下)』

[文] 喜多由浩


伊集院静さん

 ■日本人が失ってほしくないこと

 企業人の評伝小説は初めて。主人公は現在のサントリーの創業者、鳥井信治郎(とりい・しんじろう)だ。大阪・船場の薬種問屋で丁稚(でっち)から身を起こし、20歳で独立。苦労と失敗を重ねながら、常に新たなチャレンジを忘れず、日本に洋酒文化を根付かせた。

 「明治から今に至る日本人の在り方を考えたとき、商人にも、こんな強い生き方をした人がいた。慈愛や陰徳、宗教心も持っている。日本人が失ってほしくないことを、人の手を借りて書きたかったのですよ」

 パナソニックやトヨタ、ホンダなど、現在の日本を代表する企業も、最初は経営者=技術者だった。小説では、新しい商品を開発するために、彼ら自身が寝る間も惜しんで懸命の努力を続ける姿が描かれる。

 「なぜ資源を持たない日本が経済大国になれたのか? それは技術力ですよ。自動車、船舶、繊維…日本人の精巧なモノづくりは欧米人の方が知っていた。ところが今の日本人は自分たちの技術力に誇りを持っていない。どうして『2位じゃダメ』なのかも分からない。これは、理工系の教育や継承の仕方が悪かったんだと思いますね」

 信治郎が先鞭(せんべん)をつけたもうひとつの「文化」は宣伝広告だろう。新聞広告に注目、ヌードポスターなど斬新なアイデアで世間を驚かせた。「信治郎は、新しいことに興味を持ち先見性もあったのでしょう。新聞の即効性、大衆に与える力にいち早く気付いた。高度成長期にマスメディアもすごい勢いで発展してゆく。サントリーも相乗効果で伸び、広告代理店がやるようなことまでやったのです」

 信治郎と強い絆で結ばれていた松下幸之助や最初の奉公先の主人で、酒づくりを教わった小西儀助(ぎすけ)との関係など人のつながりも読みどころのひとつだ。「信治郎は終戦後、苦境に陥った幸之助に巨額のお金を渡して助けています。大恩ある儀助も終生大切にした。こうした人間関係は、大阪商人の強さでしょうね」(集英社・各1600円+税)

 喜多由浩

   ◇

【プロフィル】伊集院静

 いじゅういん・しずか 昭和25年山口県出身。立教大文卒、CMディレクターなどを経て56年『皐月』で作家デビュー。平成4年『受け月』で直木賞受賞。

産経新聞
2017年10月15日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

産経新聞社

  • このエントリーをはてなブックマークに追加