グロービスに学ぶ、生産性を上げる「土台スキル」としてのマインドセット

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MBA生産性をあげる100の基本

『MBA生産性をあげる100の基本』

著者
グロービス [著]/嶋田 毅 [著]
出版社
東洋経済新報社
ジャンル
社会科学/経営
ISBN
9784492046203
発売日
2017/12/01
価格
1,650円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

グロービスに学ぶ、生産性を上げる「土台スキル」としてのマインドセット

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

MBA 生産性をあげる100の基本』(グロービス著、嶋田 毅執筆、東洋経済新報社)の執筆者は、グロービス経営大学院教授。戦略系コンサルティングファーム、外資系メーカーを経てグロービスに入社したという経歴の持ち主です。

なお、本書のテーマである「生産性の向上」についての鍵は、「どこに力を注ぐかを見きわめ、実行に移す」ことなのだとか。そのためMBA(経営大学院)では、これらをコンスタントに高レベルで実現するための知識、素養をさまざまな角度から学ぶのだそうです。

MBAにはさまざまな効用がありますが、その1つが、まさに生産性の高い、稼ぐ(経済的価値を生む)、あるいは会社や社会に大きなインパクトを与えるビジネスパーソンになることなのです。(中略)

MBAのエッセンスを学ぶことは自身を成長させることでもあり、自身を変えることでもあります。成長/変化することを楽しめるようになったら、学びはますます加速し、生産性も相乗的かつ加速度的にあがるでしょう。(「はじめに」より)

そこで本書においては、「土台スキル」「実行スキル」「成長スキル」の3部構成により、仕事のタスク別に生産性をあげるスキルを紹介しているわけです。その原点というべき「土台スキル」のなかからChapter 1「マインドセット」に焦点を当て、いくつかの要点を引き出してみましょう。

すべては目的からスタートする

仕事をするうえで避けるべき落とし穴は、目的を意識しない状態で作業を始めること。関心の赴くままに作業を進めた結果、アウトプットはたくさん出たけれど、ビジネスに寄与しないものばかりになってしまったのだとしたら、それは意味がないというわけです。

若いころ、この落とし穴にはまった経験を持つという執筆者は、特に仕事の経験が浅いうちは、上司(もしくはクライアント)の命ずるままにやり、「なぜそれが必要なのか」まで頭が回りにくいものだと指摘しています。

上司の指示は、それをこなすことが目的化しがちですが、情報収集や分析、あるいは会議や交渉といった仕事は、最終目的ではなく、やはり手段です。

これらの仕事を振られたら、その目的や意図、あるいは指示の背景を確認することがまずは大切です。(18ページより)

たとえば市場調査を命じられたとしたら、単なる定期資料づくりの一環として必要なのか、もしくは具体的な商品開発につながるか検討するために必要なのかによって、集めるべき情報の量や質も、使う時間やエネルギーも変わってくるということ。

逆に自分が(組織外の人間も含め)誰かに指示を出す側に立った場合、重要なのはその目的を正しく伝えること。そうすることが相手の浪費を減らし、結果的には質の高いアウトプットにつながるというわけです。(18ページより)

常にメタレベルで考えよ

生産性を上げるうえで、「考える」という行為は重要な意味を持ちます。ところが、一見すると考えているようであったとしても、「物事を考えるレイヤー」が低くなっていると、なかなか生産性は上がらないものでもあります。

たとえば「交渉」について考えてみましょう。交渉する場合、不利な条件で妥結することにならないよう、「いまの相手の声のトーンはなにを意味するのか?」「なにか他に交渉を有利に導く材料はないか?」などと考えることもあるのではないでしょうか。しかし実は、交渉が始まってからこうしたことを考え始めるのでは遅すぎると執筆者はいうのです。

ここで効果的なのが、メタレベルで考えるという行為(メタ思考)を織り交ぜることです。

「メタ」とは「○○を越えた」という意味を持つ言葉であり、一段高い視点から物事を客観視することを意味します。(20ページより)

なお実践的には、メタ思考には大きく2つの要素があるのだそうです。まず1つは、一連のプロセスをあらかじめ俯瞰すること。それは物事を平面的に捉えるのではなく、構造化して考えるということにもつながるといいます。

交渉でいえば、まずは目的を押さえたうえで、相手や自分の立場や関心、想定される争点や要望、現実的な妥協点のイメージといった「交渉の構造」を押さえ、そのうえで「どのように交渉を進めるか」を考えるということ。上位概念を先に考えることによって、下位概念をより効果的に処理できるようになるという点が鍵。

もうひとつは、自分を客観視すること。もうひとりの自分が、現実に考えたり行動している自分を見て、「この発言は思慮が足りなかった。相手に言質を取られた」「いますべき議論をしていない。時間を浪費している」などと判断するということ。

これらは、現時点での自分が、会社や社会に対して本当に価値を提供しているかを振り返ったり、よりよい方法論を考えたりする意味でも、非常に大きな効果をもたらすそうです。(20ページより)

仕事は無条件で引き受けるな

ここで執筆者は、自身の1日を振り返ってみることを読者に求めています。「最終的に顧客に価値を提供し、キャッシュを稼ぐうえで、本当に必要な業務はどのくらいあったでしょうか?」というように。というのも、本来やらなくてもよかった仕事にも多くの時間を割いている人は、決して少なくないはずだと指摘するのです。

・ なにをやめていいのかわからない

・ 過去の職場のやり方にこだわってしまう

・ 支持されたことをそのまま引き受ける

などなど。

これらを避けるにはまず、「これって本当に価値提供に結びついているの?」「このやり方ってなぜずっとこうなの?」と問いかけ、ゼロベース思考で前提や習慣を疑うことが有効です。(24ページより)

ただし、これまでの習慣を急に改めようとすると、相手からは「なにを勝手に」と見えることがあるものです。そこで、ただ反発しているだけだと思われないように、彼らの感情やメンツにも配慮しつつ、自分なりの主張や仮説を正しく使えることが大事なのだといいます。

また、ある程度交渉できる相手であれば、「この部分は、他の人に手伝ってもらっていいですか?」「この仕事はやるので、(必要性が低い)こちらの仕事を減らしてもらっていいですか?」など、相手が飲みうる条件を引き出すことも大切。そうすることで、価値につながる仕事により多くの時間を使うことも検討すべきだという考え方です。(24ページより)

よい結果が出たときこそ「なぜ?」を繰り返し問え

有名なトヨタ流問題解決法に、「『なぜ』を5回繰り返せ」という言葉があります。なにか問題が起きたときは、その本質的な原因を探るために「なぜそうなったのか?」と問い、そこから導き出された結論に対して再度「なぜそうなったのか?」と問うことを5回繰り返すというもの。

一方、生産性を高める上でより効果的なのは、よい結果が生まれたときに、その結果をもたらした要因を探るために「なぜうまくいったのか?」と繰り返し問うことです。

そこで得られた仮説や結論を次の行動にコンスタントに取り入れ、普遍性が高いものであれば、職場でその知見やノウハウを共有(横展開)することで、職場全体の生産性向上を図ることも可能となります。(28ページより)

たとえば営業担当者が大きな商談をまとめることに成功したらなら、その時点で「なぜうまくいったのか?」を繰り返し自問してみるということ。

「なぜこのような大きな商談をまとめることができたのか?」

→「相手のニーズを正しく捉えることができたから」

→「なぜ相手のニーズを正しく捉えることができたのか?」

→「顧客のキーパーソンと早い段階で懇意になることができ、いろいろな情報を聞くことができたから」

→「なぜ顧客のキーパーソンと早い段階で懇意になれたのか?」

→「友人の友人だったから」

(29ページより)

ここから導き出せるのは、友人ルートを活用し、筋のいい見込み顧客から集中的に攻める、あるいは過去の顧客などからの紹介を積極的に活用して営業すれば、効率が上がるのではないかということ。それを仮説検証しながら再現性のある方法論として固めていくと、非常に大きなパワーになるわけです。

「なぜ?」を問う際に大切なのは、「本当に効いた要因がなんなのか」をていねいに検討すること。なぜなら、本質的な成功理由が別のところにあったかもしれないから。思い込みではなく、メタな視点に立って本質的な原因を見極めることが重要だということです。(28ページより)

簡潔なフレーズによってまとめられた各項目に、平易な解説が加えられたコンパクトな構成。そのためグロービスの「生産性向上」についての考え方を、効率よく吸収することができるわけです。ビジネススキルを高めたいのなら、読んでみる価値はあると思います。

Photo: 印南敦史

メディアジーン lifehacker
2018年1月15日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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