アルビノを楽しめる世界の幕開け ――初瀬礼『呪術』

レビュー

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呪術

『呪術』

著者
初瀬, 礼, 1966-
出版社
新潮社
ISBN
9784103400523
価格
1,980円(税込)

書籍情報:openBD

アルビノを楽しめる世界の幕開け

[レビュアー] 粕谷幸司(アルビノ・エンターテイナー)

 アルビノという存在は、主に同人など2次元界隈では既に知られている。特に、黒髪で黒い瞳、黄色系の肌の色が普通とされるこの国で、生まれながらに白い髪、透き通るような白い肌に、ガラスのような瞳とは……、まるでアニメやライトノベルのキャラさながらの容姿。しかも太陽光に弱く光を避けるというような特質は、明と暗を併せ持つ、とても神秘的で、恐ろしくも美しい、面白みのある存在だ。

 Yahoo!知恵袋なんかでは、よく「アルビノのキャラが登場する作品を教えてください」なんて質問が上がっている。SNSでも、頻繁に「○○ってアルビノ設定?」なんて会話がなされている。彼らはそれを面白がれる、豊かな感覚の持ち主なのだ。そんな人たちに、ぜひこの小説を読んでみてほしい。

 アルビノは定義として遺伝子疾患、いわゆる生まれつきの病気だ。平成27年には残念なことに、この国の指定難病に追加された。弱視であることが多く、日焼けをすると火傷のようになり、見た目が大いに普通と違うため就職などで苦労しやすい。その難病を、軽はずみに創作物に取り入れれば、ネットを介してどこからともなく叩かれ、口汚い言葉に焼かれるだろうことは想像に難くない。

 また、黒人社会のとある国では、普通の家族から何の前触れもなく生まれ出てくるアルビノの子を、特別な力が宿る、呪術の材料と称して売買するため殺傷する、とても信じ難い残虐な事件が起きている。そんな境遇の存在を、単純に美しいとかカッコいいとかの眼差しで見ようものなら、差別だの不謹慎だのとにわか識者に人格否定までされかねない。

 僕は、そんな現代のこの国に生きるアルビノの本人として、薄っぺらいクソみたいな世間の生きづらさをぶち壊してみたくて、表現者を続けているのかもしれない。

 幼い子はみんな可愛いけれど、アルビノの子の可愛さは格別だ。僕なんかですら昔の写真を見ると尋常じゃなく可愛いと思う。まるで天使だ。今となってはその頃が、僕の人生の絶頂だったのかもしれないとすら思う。

 そんな天使だった僕も、地元の普通の学校に通い、夏休みの宿題を踏み倒しては先生に叱られ、友だちとふざけ合って怪我をさせたり、チャットで知り合った北海道の子と遠距離恋愛して無様に振られ、大学生活は授業より小劇場や飲み屋に通っていた。

 その後も表現活動がやめられず、職を転々とし、稀に彼女ができては別れ、告白しても振られ、34歳いまだ独り身。職も定まらず、人として普通にヤバいと思う。泣けてくる。

 良いとか悪いとかは置いておいていただいて、この国でいま生きているアルビノの人間の、ひとつの現実がこれである。

『呪術』という作品では、アルビノの少女、呪術師と組織、警察とメディアと未来の街……、様々な世界が描かれている。そのすべてが、丁寧に取材され、慎重に想像されて現れる。

 僕は戦争や裏社会には詳しくないし、何がどれだけ真実なのかはわからない。けれど信じてしまうのは、僕がアルビノの本人で、作中のアルビノの少女がとても現実的で、とても可愛く、強く生き抜いているからだ。

 作者の初瀬さんは、アルビノという存在に深く踏み込んで、現実を見聞きし、知ってこの作品を完成させた。これからのコンテンツとしてのアルビノに、大きな影響を与えていくことは間違いない。アルビノ好きの界隈のみんなに、最後までたっぷり没入してもらえると思う。

 アルビノという存在を知らない人には、少女・ケイコがとても人間味のあるリアルな存在として愛されてほしい。

 アルビノをなんとなく、病弱で無機質で可哀想な存在だと思っている人には、もうひとつの真実として楽しんでほしい。

 アルビノに特に興味の無い人には、そんな特殊なキャラの主人公が活躍するサスペンスとして、存分に嗜んでほしい。

 待ちわびていた、アルビノを楽しめる世界の幕開けだ。

新潮社 波
2018年2月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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