最上もが「あの頃の記憶はできれば全部飛んで欲しい」 最上もが×一木けい

対談・鼎談

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1ミリの後悔もない、はずがない

『1ミリの後悔もない、はずがない』

著者
一木 けい [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784103514411
発売日
2018/01/31
価格
1,540円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

最上もが「あの頃の記憶はできれば全部飛んで欲しい」 最上もが×一木けい

[文] 一木けい(作家)/最上もが(タレント、モデル、女優)


左から一木けいさん、最上もがさん

椎名林檎さんの推薦文と共に注目を集めている小説『1ミリの後悔もない、はずがない』を読んで号泣したという最上もがさんと著者の一木けいさんが、つらすぎる恋愛について、ボロボロ泣いたという小説のラストについて、幸せを感じられない生きづらさについて、記憶を消したいほどの出来事について語り合いました。

 ***

救いのないラストがすごく刺さった

最上 今回、作家の方との対談になぜ自分がお声を掛けていただいたかわからなかったんです。どうしてですか。

一木 この『1ミリの後悔もない、はずがない』という小説は私のデビュー作なのですが、ある編集者さんから最上もがさんに読んでいただいたら正直な感想をお聞きできるんじゃないかという提案があったんです。それでお願いして読んでいただいたら、「一気に読んで面白かったけれど、読み終わった後、落ち込んで暗くなりました」という感想をいただいて、これはもっとお話を聞きたいと思ったんです。

最上 嘘がつけないので、失礼になるんじゃないかと思ったんですけど、よかったんでしょうか。

一木 正直な感想をいただけて、とてもうれしかったです。この小説は暗い部屋で暗い気持ちで書いていたので、私も後味は悪いんじゃないかと思っていました。

最上 最初の「西国疾走少女」という中学生の恋愛を描いた小説から、とても面白く読んでいたんですけど、登場人物たちがつらい目にあったりするので、その人たちの気持ちを考えたり、自分に置き換えて考えたらすごく苦しくなって……。でも後味はハッピーエンドとは言えないけれど、すごく刺さりました。

一木 ありがとうございます。

最上 現実はハッピーエンドは少ないですし、人間は表と裏が違うというか、いざという時に裏切られてしまうこともある。『1ミリの後悔もない、はずがない』はある意味、救いのないラストだったから、逆に納得出来るというか、「ぼく、わかります」って思いました(笑)。人間の汚い部分も包み隠さずきちんと描いて下さっているお話だと思いました。

一木 もう、大好き。

最上 お休みの日に読み始めたら先が気になって、一気に読んでしまって。これはいつどこで誰がハッピーになるのか、それともバッドエンドなのか、わからなかったんですけれど途中まで読んで、「マズイ、これはたぶん幸せになれない」って。2人の幸せをすごく願っていたんですけど。

一木 ごめんなさい。

何回も読み返しながらボロボロ泣いて


最上もがさん

最上 本の中で気になったところを携帯にメモったんです。「絶望には二種類ある。何かをうしなう絶望と、何かを得られない絶望。」「でも、何かを得られない絶望の方が、断然マシだ。すでにあるものをうしなう痛みよりは。」という言葉にそうだよなあ、と思って。告白しても相手のことを深く知って別れたわけじゃないなら、その時は傷つくかもしれないけど、言えてよかったとすっきりすると思うんです。人の中味まで深く知って愛してしまって、それでうしなうっていうのはかなり耐えがたいです。告白して振られてつらいという感覚よりも、ずっと一緒にいたのに消えてしまったことの方が、うしなったものが大きいと思って、想像して泣きそうになりました。

一木 耐えがたい思いをさせてしまって、すみません……。

最上 いちばん泣いたのは、最後のシーンです。最愛の人と結ばれないで大人になって、その相手からの昔の手紙を手に入れて読んでしまって。どこで間違えてこうなっちゃったんだろう、最後の手紙を何回も読み返しながらボロボロ泣いて……。

一木 そういう正直な感想を伺えて本当にありがたいです。

最上 あー、ドライブ行きたいって言ってたな、って最初の小説を思い出して。だからぼくは手紙は受け取って欲しくなかった。すごく複雑な気持ちになりました。あーつらい、って。なので、あんまり簡単に他の人に薦められないなと思いました。

一木 主人公に共感しすぎてつらくなっちゃうからですか?

最上 人の不幸を見て自分はそれよりマシだと思えるか、自分も同じような経験をしているから本当につらい、と共感するか。ぼくは本当につらくなっちゃって、自分のファンの子にも同じようなタイプが多いと思うので、ハッピーな気持ちにはなれないという大前提でだったら、ぜひ読んでみてと薦められます。

一木 感受性が鋭すぎると確かにつらいかもしれませんね。

最上 でも読んでいて救われる言葉もいくつもあったし、幸せなシーンもありましたよね。修学旅行で部屋をこっそり抜け出して、好きな人と会っているのがバレて先生に叱られるところも、ああいうふうにドキドキする感情って、学生時代にはあっても社会人になると薄れていきますよね。

一木 あの場面では、先生から2人が殴られるんですけど、もがさんの学生の時、体罰はありましたか?

最上 自分の時代はもう、先生が殴るとかなかったのであの場面は驚きました。言葉の暴力はありましたけど、手を上げたらダメというのがもう普通でした。

一木 私なんていつもチョーク投げられたり教卓の横に正座させられたりしていたけど。私の場合は小学校4年の時に福岡から東京に引っ越してきて、言葉のなまりがあったし、家が貧しかったから見た目のことでも言われて、クラスの集団になじめなくて、学校のトイレに入っていたら上から水をかけられたりとかのいじめもあったんです。

最上 ぼくの学校はかなり平和なところで、体罰もいじめもそんなに見ないで育ったんですけれど、ある意味、みんな心が幼くて恋愛沙汰もほとんどなかった。高校でもまったくいじめとかはなくて平和に過ごしていました。

一木 じゃあ学校を好きでしたか?

最上 平和すぎて何の刺激もなく、学校に何の意味があるんだろうと考えちゃって、ネットゲームばかりしてほとんど行きませんでした。

一木 そうなんですね。

絶対いつか他の人を好きになるんだから

一木 もがさんはいろいろなことを悩んで深く考えて、言葉で表す才能が本当に素晴らしいですね。

最上 そうですか? こんなに正直に感想を言ったら引かれるんじゃないかと心配していました。

一木 そんなことまったくありません。もっと伺いたいです。

最上 読み終わった後も、登場人物たちが今何してるんだろう、って、その後の書かれていないストーリーを考えたりしちゃいました。一木さんは、どう終わらせるつもりで書かれていたんですか?

一木 この本は短篇5篇で出来ていて、それぞれ由井という主人公の女の子のまわりを描いたんですが、最後の小説「千波万波」は、由井が苦しい少女時代から大人になって幸せな家庭を築くまでにどういう過程があったかを書きました。でも、どう書けば幸せな結末だったんでしょうね。

最上 わかりやすく考えれば、由井と桐原が再会して繋がればハッピーエンドなんだと思いますが、現在の彼女は結婚して子どももいるんですから、離婚したらハッピーではないですね。うーん、燃え上がるような恋って、かなわないんですね。

一木 そうですね、燃え上がっちゃうのは継続が困難ですよね。

最上 一時的な感情って続かないというのは実感しているんです。ファンの人が「ずっともがちゃんしか見ないから」とか言ってくれても、絶対いつか他の人を好きになるんだから、と思っちゃう。最初の頃は信じていたから、ファンの子の名前を覚えたくてよく来てくれる子のtwitter見たりしていたんですけど、ある時その子が他のアイドルとの2ショットあげてるのを見ちゃった時に一気に萎えてしまって。一途に応援して下さいって言えるわけでもないし、その恩返しができるわけじゃないし。そういうことがたくさんあってもうSNSは見ないんです。でもファンにとって選択肢はたくさんあるし、アイドルなんて娯楽の一つなんだから。

一木 かっこいい!

最上 他人の言葉や冗談も真に受けて傷つくこともあって。そういうことにでんぱ組.incで活動して4年目位まで気づかなかったんです。気づいてから、あ、違ったんだな、期待しないようにしよう、って。

実体験じゃないと言葉に信用性がない

一木 私はもがさんがブログで読者の方にとても親身になられていて、読んでいて涙が出ました。「裏切られても構わないと思えるほど好きな人だけ信じる」って書かれていましたよね。信じるのってむずかしいし、苦しいですよね。

最上 ブログで相手のアドバイスとして答えていることは、自分に言い聞かせている言葉なんですよね。

一木 だから他人事でなく受け取る側にもすごく響くんですよね。私が落ち込んでいる時に読んだブログにも、メモしてしまうほどうれしい言葉がたくさんありました。すごく救われました。

最上 そうなんですか、うれしいです。悩み相談でも読者の悩みを自分のことに置き換えて考えて答えるんです。実体験じゃないと言葉に信用性がないなと思っていて。

一木 こんな丁寧に答えているブログないですよ。見たことないです。

最上 本当ですか、長文で読みにくいんじゃないかと心配です。

一木 そんなことないです。読みやすい文章ですし、風呂やベッドでも読んで「本当にそうだよね」って力をもらっています。

最上 小説は読者のことを考えて書くんですか? たぶん人の気持ちを明るくさせたいと思って書いてないな、と思いました。違う方向でみると家族愛も感じられるけど、ぼくはとにかく暗い方に引きずられてしまったんです。読んだ日は一日中この小説のことを考えてしまったので。それでこの作者はどう考えているのかなって。

一木 私は小説を書く時は読者の反応までは考えて書いてないんです。何も考えずパッションだけで一気に書いて。でも本として出来上がった今は、これから先何も良いことなんてない、と思っているような女の子に届けられたら、と願っているんです。

恋愛の記憶は消したい、苦しいものでした


一木けいさん

最上 いちばん最初の「西国疾走少女」も好きなんですけれど、いちばん気になったのは、年下の学生と不倫をしていたのに自分から切って別れてしまう女性の話です。この人この後どうなっちゃうんだろう、と気になってしまって。

一木「穴底の部屋」ですね。かなり暗い話ですよね。自分でも書きながら、暗い~って思っていたんです。

最上 でもこの小説とても好きですね。

一木 結婚して子どもも生まれて幸せなはずなのに、ふとしたことで年下の男の子と関係を持ってしまった女性を描いたんですけど、彼女が別れを決意する場面は書いていてもつらかったです。恋愛って苦しいし、いつか終わる。それでも恋愛した方が良いと思うんですが、もがさんはどうですか?

最上 ぼくはもう記憶を消したいです。あまり楽しい恋愛をしてきてない、ほとんど苦しかったので……。

一木「西国疾走少女」の由井と桐原みたいに、10分あったら会いたい、ただ会いたいからずっと走っちゃう、みたいな恋愛は?

最上 もちろん、会いたいなあ、とかありましたけど、叶わない場合の方が多かったので、恋愛は苦しいものでした。

一木 学生の時は?

最上 中学の時に先輩を好きになって、友達とキャーキャー言ってたんですけど、結局告白もしないでそのまま憧れで終わっているんです。その頃はキャーキャー言うのが恋愛と思っていて、つきあうっていうのが何かわからなかったんです。

一木 憧れだったんですね。

苦しく寂しく会いたくても会えず

最上 大人になって苦しさを知ってからは、憧れだけで相手のことも知らないままだった方が幸せだったのかもと思って……。今は逆に恋愛したくないって思っています。

一木 心を波立たせたくないんですね。

最上 だから『1ミリの後悔もない、はずがない』で描かれた結ばれない恋が、すごく刺さりました。こんなにつらい目に遭っているのに、最愛の人とは結ばれないんだ、と。

一木 でも苦しいとか寂しいとかつらいとか面倒くさいがない恋愛は、ないですよね。

最上 そうですよね、恋愛には必ずつらいことがあると思うので。友達とかが恋愛ですごく盛り上がっているのを見ると、いつかこの子が泣きついてくるかもしれないって感じちゃうんです。

一木 もがさん、5キロくらい先を見ているような遠い目をなさっているんですけど……。

最上 一途な人間はいないと思っていて。

一木 浮気するということ?

最上 男は浮気すると思っています。男の人は本能的にするんです。だけど女性の浮気の方がおそろしいと思います。

一木 そうですね、私もそう思います。そして男の人は気づかない。女性はすぐ気づきますよね。ここまで知られているはずがないと男性が楽観しているところまで女性は知っていますよね。

最上 女性は彼氏の行動とか細かいサイクルとか、旦那の癖とか習性とかすべてわかっていて、おかしなことがあると薄々感づいていて、決定打が携帯なんですよね。

一木 男性はわかりやすくて、いろんな言動がぽろぽろこぼれちゃっているし、女性は察してしまうし。

最上 だからバレた時でも「ほら、やっぱり」って。

一木 苦しい恋愛ありますよね、苦しく寂しく会いたくても会えず。

最上 そういうのはどうするんですか。

一木 記憶の底にしまっておいて、いつか小説にします。そのまま書くということではなくて、形を変えて物語に落として消化するというか。

最上 それまではフタをして忘れているんですか。

一木 意識はしなくても、つらいことは思い出さないように脳が忘れさせるんですよね。それがある時何かのきっかけでばーっと出て来ちゃって。『1ミリの後悔もない、はずがない』を書いている最中も自分の苦しかった過去が蘇ってきてきつかったのですが、あえてそれに突撃するみたいに突進して、物語に変えていました。

Book Bang編集部
2018年4月3日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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