穂村弘×堀本裕樹・対談 対決! 短歌と俳句公開勝負〈『短歌と俳句の五十番勝負』刊行記念〉

対談・鼎談

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短歌と俳句の五十番勝負

『短歌と俳句の五十番勝負』

著者
穂村 弘 [著]/堀本 裕樹 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学詩歌
ISBN
9784104574032
発売日
2018/04/26
価格
1,760円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

〈『短歌と俳句の五十番勝負』刊行記念トークイベント〉穂村弘×堀本裕樹/対決! 短歌と俳句公開勝負

[文] 新潮社

忍者姿で闘いのポーズ
忍者姿で闘いのポーズ

荒木経惟「挿入」

穂村 「挿入」、難しい題です。

堀本 僕から読みます。

挿入歌奏づるごとく若葉風

穂村 ちくわの穴にチーズ挿入したものを教卓に置き みんなで待った

堀本 おもろいですね。

――勝負! 俳句42、短歌37。

穂村 挿入歌なんてずるくないですか。逃げていません?

堀本 アラーキーの「挿入」で性的なことに引っ張られるのがいやだったので、他に言葉を探しました。

穂村 挿入歌は、ポピュラーな言葉だし、これはお題の恩寵があると思うんだけど、ナチュラルに作り続けていると、意外なことが書けなくなってきますよね。むちゃな題が出て、何とかしなきゃというのが非常事態宣言みたいな感じで、思いがけない言葉が出てくることがある。

堀本 そうですね。恩寵を感じます。

穂村 これ、すごくいい句だと思います。

堀本 勝負しているのに褒めていただける嬉しさ……穂村さんの歌、これもすごく面白い発想です。

穂村 これは実話で、小学校のときに、給食にちくわとチーズが出て、誰かがそれを挿入して教卓に置いて担任の先生を待った。そのときの緊張感とときめきを覚えていて、わくわくしながら待ったんですが、先生はそれを見て激怒して、泣いて帰ってしまって、みんなすごくびっくりして。まさかそんなことに……

堀本 ……なるとは思わなかった。

穂村 未来ってやはりわからないな、と思った、その時。まさか、そんな激烈な反応があるとは。僕のイメージでは、「何だこれ、パクン」みたいに食べちゃったりするんじゃないか、なんて勝手に思っていたので。

堀本 楽観的な見方ですね。

穂村 それで大人になってから、立食パーティーとか行ったら、我々が創作した、ちくわチーズがあるんですよ。

堀本 先駆けだったんですね。

穂村 他にもいろんなものがちくわの穴を利用して挿入されている。しかも上品な立食パーティーで。

堀本 今でも、そういうのを見たら思い出しますか、その先生のこと。

穂村 泣いたからね。先生が泣くとショック受けちゃうね、子供は。

堀本 インパクト強いですね。

穂村 でも、負けました。

――会場に手を挙げているかたが。

参加者 穂村さんにお伺いしたかったのですが、いまのちくわの歌で一文字あけているのは、何か意図とかあったのかな、と。

穂村 これは、みんなで、先生が来るまでドキドキしながら見つめた、その時間、ですよね。それをこの一拍で出せたら、ということです。

堀本 このスペースで、そういう時間性、ドキドキ感を出している。

穂村 短歌も俳句もだけれど、短いから、一連の出来事のどこを切り取るかで、個性が出ると思うんです。自分にとっては、「先生はどうなるんだろう」という、そのときめきがメインですから、一字あけて、みんなでそれを待ったことを書いています。短詩型は一種のトリミングが常に必要です。堀本さん、俳句には何かセオリーがありますか。

堀本 特にセオリーはないと思いますが、やはり俳句は省略の文芸なので、読み手に想像してもらう部分が、さらに多いですよね。

柳家喬太郎「舞台」

トーク会場風景
トーク会場風景

穂村 次は柳家喬太郎さんのお題、「舞台」。

堀本 船虫に舞台度胸のなかりけり

穂村 まっくらな舞台の上にひとひらの今ごろ降ってくる紙吹雪

堀本 ありますね、こういう風景。この歌、すごく好きです。この時間性がいいんですよね。本来落ちるべき時間に落ちてこなくて、今ごろ、ひらひら落ちてくるという、そこの時間差に美しさがある……穂村さんの美意識というか、世界観を感じるんです。好きな歌です。

穂村 本当は落ちてはいけないときに落ちてくると、はっとしません? 舞台はやっぱり特殊空間だから。

堀本 仮想の世界観ができているからちょっとしたことでも、あっと思っちゃう。そういう緊張感がある。

穂村 台詞を噛むのだって、日常ではよくあることだけど、舞台ではそうじゃないから。タイミング芸術ですからね。

堀本 この歌、いいですね。

穂村 この句は、船虫に舞台度胸っていうのが最初読んだとき、おかしくて。たぶん石とかをパッと上げると、その下にいる船虫が、ぱーっと一気に物凄い速さで逃げて、堂々としているやつは一匹もいない、ということですよね。

堀本 もうちょっと度胸があってもいいんじゃないの、と。

穂村 生存戦略がそうなっている。さっき我々が忍者の格好で外を歩いていたら、みんな目を合わせない。

堀本 目を背けられました、二人の少女に。子供は忍者がいたら、絶対見ちゃうものだと思いませんか?

穂村 いま、いかに世界がヤバいか、わかりますよね。生存戦略がスキルアップしていて。

堀本 完璧に本物のヤバい人かなって思われたのかもしれない。

穂村 この格好で、新潮社のトイレに行く途中、会議をしている部屋の前を通ると、「天誅!」なんて、躍りこんで行きたくなった――あれは、何だろうね。

堀本 面白い経験ですよね。ぼくらも舞台度胸がないのかもしれない。

――勝負! 短歌52、俳句26。

新潮社 波
2018年5月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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