シリコンバレーの頂点を極めた“ペイパル・マフィア”首領の野望

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シリコンバレーの頂点を極めた“ペイパル・マフィア”首領の野望

[レビュアー] 田中大輔(某社書店営業)

 ピーター・ティールという人物をご存知だろうか?「今日のビジネス界でピーター・ティールの名を聞いたことがないという人間がいたら、そいつはまちがいなく三流だ」という一文から本書は始まる。世界最大のオンライン決済サービス、ペイパルの共同創業者で、世界最大のSNS企業、フェイスブックを創業から支える初の外部投資家である。またペイパル出身者がテスラ・モーターズ、リンクトイン、ユーチューブといった、シリコンバレーを代表する企業を次々と生みだしており、固い絆で結ばれた彼らは「ペイパル・マフィア」と呼ばれている。ピーター・ティールはその首領としてシリコンバレーの頂点に君臨している。

 彼がスタンフォード大学で行った講義の内容をまとめた『ゼロ・トゥ・ワン』(ピーター・ティール、ブレイク・マスターズ著、関美和訳、NHK出版)は全世界でベストセラーとなっており、多くの起業家に影響を与えた。日本でもベストセラーとなり、2015年には『ビジネス書大賞』に選ばれている。

 彼は一筋縄ではいかないことでも有名である。大学を辞めて起業した若い学生たちに資金を提供する基金を立ち上げ、ハーバード学長を激怒させたり、恒久的な自治コミュニティを海上に建設するという非現実的な計画に約125万ドルを出資したりしている。さらに多くの人を驚かせたのは、2016年の米国大統領選でドナルド・トランプへの支持を表明し、選挙資金を提供したことだろう。大方の予想を裏切り、トランプが米国大統領に当選。大統領就任後は、テクノロジー業界とトランプの橋渡し役となり、さらにティールの信頼するスペシャリストを多く政府の要職につかせて、規制緩和とイノベーションを促している。

 こんな破天荒な人物の評伝がおもしろくないわけがない! 稀代の起業家の成功の理由がこの本を読むことでわかるだろう。彼が成功した理由の一つである「逆張り思考」は身につけておきたいところだ。当たり前だと思っていたことを疑い、新しい視点で徹底的に考え直す。これであなたも成功のきっかけをつかめるかもしれない。

新潮社 週刊新潮
2018年6月28日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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