またも“不祥事”、古市憲寿と落合陽一の対談が大炎上

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またも“不祥事”、古市憲寿と落合陽一の対談が大炎上

[レビュアー] 栗原裕一郎(文芸評論家)


文學界 2019年1月号

 また不祥事である。

 今回は文芸誌1月号が対象だが、〆切の都合で他の文芸時評よりだいぶ遅れて書かれている。後発を利点に事件を追うことにしよう。

 不祥事とは、『文學界』が載せた、社会学者・古市憲寿とメディアアーティスト・落合陽一との対談「『平成』が終わり、『魔法元年』が始まる」に端を発する騒動である。超高齢化社会と社会保障費、安楽死や尊厳死について語り合った箇所があるのだが、これが磯崎憲一郎の朝日新聞文芸時評で批判的に取り上げられたのを機に大炎上した。

 財政破綻を所与の前提に、古市が「財務省の友だち」と検討したところコストがかかっているのは終末期医療最後の1ヶ月だからここを削ればいいと切り出し、「『十年早く死んでくれ』と言うわけじゃなくて、『最後の一ヶ月間の延命治療はやめませんか?』と提案すればいい」(古市)、「保険適用外にするだけで話が終わるような気もする」(落合)、「自費で払えない人は、もう治療してもらえないっていうことだ」(古市)などと、死を値踏みする、為政者側の代弁じみたやりとりが展開される。

 専門家筋から高齢者医療に対する無知と無理解を指摘する声が上がるなか、評論家・荻上チキから、財源を根拠に「死」を制度化することは優生思想に繋がるという批判が出され、ツイッター上で議論がなされた。落合は非を認めた部分について謝罪撤回したが、古市とは噛み合わなかった。

 この対談は古市の芥川賞候補作『平成くん、さようなら』を受けたものだ。雑誌の発売は12月7日。1月16日に控えた芥川賞を意識したプロモーションと見て穿ちすぎではないだろう。

 結局古市は落選した。奥泉光の選考の弁によると、奥泉の△以外全員×、テーマである「安楽死」の扱いが雑という意見も出たそうだ。炎上騒動の影響は不明(私は影響したと思うが)。

 磯崎は、古市と落合の想像力の欠如に憤慨していたが、私はむしろ『文學界』編集部にこそ想像力とリテラシーの欠如を感じた。ほぼ同じ性質の問題で休刊に追いやられた『新潮45』事件の何を見ていたのかと。

新潮社 週刊新潮
2019年1月31日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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