『てらこや青義堂 師匠、走る』
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外連味たっぷり、見事な忍者もの
[レビュアー] 東えりか(書評家・HONZ副代表)
『童の神』(角川春樹事務所)が直木賞候補、「羽州ぼろ鳶(とび)組」シリーズ(祥伝社文庫)がヒット中の作家、今村翔吾の新作は、なんと太平の世であった江戸時代の明和年間に生きる忍者の物語だ。
江戸・日本橋で寺子屋「青義堂」の師匠を務める坂入十蔵は三十三歳。わずか十六畳ほどの講堂に、今日も十二人の筆子が集まってくる。街中には年々寺子屋が増え続けている。その中で、青義堂はどこの寺子屋でも匙を投げられた者を受け入れることで有名である。
貧しい御家人の息子だが剣術には恐るべき天稟(てんぴん)を発揮する鉄之助、大きな呉服屋の息子で浪費癖の激しい吉太郎、大棟梁の息子だが気の弱い手先の器用な源也、そして加賀前田家人持組(ひともちぐみ)、生駒家の娘・千織は兵法に傾倒しているおてんばだ。
十蔵は伊賀組始まって以来の鬼才と称される忍びであった。しかしある事情から妻を六年前に離縁し家を去る。今では腕はすっかり鈍り、子供たちのいたずらにもひっかかるほどだ。お金の為と割り切り、忍術の手引き「隠密往来」を執筆中だ。
ある日、加賀藩のお家騒動に巻き込まれた千織を助けるとき、隠していた元忍びの身分を知られてしまう。
将軍暗殺を狙う「宵闇」の動きが激しくなったころ、筆子たちがお陰参りを企てていることが発覚する。頼み込まれて同行することになった道中、離縁した妻に危険が襲い掛かることを知り、十蔵は妻のもとへ走るが、ある策略が待っていた。
かつて熱狂した山田風太郎や半村良を彷彿とさせる。技の名前も外連味(けれんみ)たっぷりで一気読みさせられた。十蔵の活躍の続きが早く読みたい。