『「面白い!」のつくり方』
- 著者
- 岩下智 [著]
- 出版社
- CCCメディアハウス
- ジャンル
- 社会科学/社会科学総記
- ISBN
- 9784484192215
- 発売日
- 2019/06/27
- 価格
- 1,650円(税込)
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「余裕」を持って「よそ見」して「観察」する。おもしろい表現への3ステップ
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
『「面白い! 」のつくり方』(岩下 智 著、CCCメディアハウス)の著者は、電通のアートディレクター。
TVCM、Webサイト、アプリ開発、プロダクトデザイン、サービスデザイン、ゲームデザインなどさまざまな仕事に携わる一方、自らイラストやマンガも描いているという人物です。
そのような立場上、ずっと悩み続けているテーマが、「おもしろいってなんだろう?」ということなのだとか。
そして、「そんな漠然としたテーマを体系的に捉えられれば、表現活動のヒントになるかもしれない」という思いから、本書では「おもしろい表現とはなにか」「おもしろい表現をするにはどうすればいいか」について考えているわけです。
ただし「表現」という部分には、重要なポイントがあるようです。
ここでいう「表現」とは、何もクリエイターだけが行うものではありません。クリエイターではない人でも、実は普段から創造的な表現活動をしているのです。
例えば、SNSで自分の撮った写真をシェアしたり、友達とチャットで会話したりするのは、多くの人がやっている表現活動です。
「この写真はもう少しボカした方がカワイイかな」とか「こっちのスタンプの方がウケるかな」などと考えてコミュニケーションすることも、十分にクリエイティブな事故表現活動と言えるのです。(「はじめに」より)
そう考えると、たしかに表現を身近なものと感じることができるのではないでしょうか?
おもしろい表現をするためのステップ
なにかを表現する際に必要なのは、「インプット」と「アウトプット」という段階。
なぜなら人間は、過去に経験したことや、それまでに得た知識や情報などを組み合わせることによってしか、新しいものを生み出すことはできないから。
つまり、無から有を生み出すことはできないわけです。
そしてこのことに関連し、ここではアイデア発想のメソッドとして有名な、ジェームス・W・ヤングの著書『アイデアのつくり方』のなかの一節が引用されています。
「アイデアとは既存の要素の新しい組み合わせ以外の何ものでもない」(159ページより)
つまり、「インプット」なに「アウトプット」は存在しないということ。
さらに、こうした考え方を踏まえたうえで著者は、おもしろい表現をするために必要なプロセスを5ステップに分けています。
①「余裕」を持つ
②「よそ見」をする
③「観察」する
④「法則化」する
⑤「表現」する
(160ページより)
この5つのなかから、最初の3ステップに焦点を当ててみましょう。
「余裕」を持つ
「効率」ばかりを追い求めて生活していれば、たしかに最短距離でゴールにたどり着くことは可能。
しかしそれでは、たとえば道端にきれいな花が咲いていたとしても、気づかず素通りしてしまうことになるかもしれません。
少しは、まわりを見渡す「余裕」を持つことが大切であるわけです。
「余裕」を持つということは、普段の生活の中にちょっとした「遊び」を設ける、ということでもあります。
(中略)適度な「遊び」がないと、人生はギチギチとした歯車のようになってしまいます。
それでも何とか強引に歯車を回すことはできるかもしれませんが、当然、余計に負荷がかかります。この負荷こそが「ストレス」なのではないでしょうか。(168ページより)
たとえば、おもしろいアイデアが出ないときはいったんその場を離れ、ちょっと別のものを「よそ見」するくらいの「余裕」があったほうが、気分をリフレッシュさせることができ、そこから新しい視点を見つけることができるわけです。(161ページより)
「よそ見」をする
「余裕」ができたら、次に大切なのは普段と少し違う視点を持つこと。そこで意味を持つのが「よそ見」だといいます。
つまり「視野を広げる」ということ。
自分の専門分野や得意分野に関しては、知識があっても当然。また、そのことに関する情報収拾も、やって当たり前。
それらを当然のこととしてやったうえで、関係のない分野や知らない領域についても「好奇心」を持って「よそ見」をする。それが、よりよい「インプット」につながるという考え方です。
しかし、どれだけ意識的にいろいろなものを「よそ見」しても、なかなかおもしろいものを見つけられないという場合もあるでしょう。
著者はそんなときのために、手っ取り早い方法を紹介しています。
Twitterで「#面白い」と検索すればいいだけです。通常の検索と違って、リアルタイムに「世の中の人はいま何を面白いと思っているのか」を可視化することができます。
色々なツイートを見ながら、それはどういう面白さなのかということを考えてみると、きっと意外な発見もあるはずです。
自分とは違ったものの見方、面白さの感じ方を覗き見ることができる一つの方法です。(174~175ページより)
少しでも普段と違った視点を持ってみれば、世界の見方が大きく変わることもあるということです。(170ページより)
「観察」する
3つ目のステップは「観察」。まず「余裕」を持ち、自分の好奇心に従って「よそ見」をする。
そして、そこで発見した「おもしろいもの」について、「これはなにがおもしろいのか」「どういう種類のおもしろさなのか」ということを、つぶさに「観察」するわけです。
「観察」とは、その名の通り「物事を客観的によく見ること」です。
植物や昆虫の観察のように、視覚的に見ることはもちろんですが、ここでの「観察」に必要なことは、物事の「本質」をよく見極めるということです。(176ページより)
さまざまな方法を通じて物事をよく観察すれば、その対象の本質が見えてくるもの。
「なぜこんな形をしているのか」「なんのためにこんな質感になっているのか」といったことを、観察を通して理解できるのです。
そこで、なにかを見て「あ、おもしろいな」と思ったときには、見る角度や距離を変えて客観的に全体像を見てみたり実際に手で触ったりすると、「おもしろさの本質」も見えてくるものだと著者は記しています。(175ページより)
普段のなんでもない会話でさえ、十分に自己表現活動。
しかし、そこに少しでも「おもしろさ」をプラスすることができたら、毎日はさらに楽しいものになるはず。そのためのヒントを、本書のなかから探し出してみてはいかがでしょうか?
Photo: 印南敦史
Source: CCCメディアハウス