自分が本当に辛かったのは「母親を好きと言えない」ことだったのかもしれない ふみふみこ×渡辺ペコ対談

対談・鼎談

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愛と呪い 3

『愛と呪い 3』

著者
ふみふみこ [著]
出版社
新潮社
ISBN
9784107722287
発売日
2019/11/09
価格
704円(税込)

1122(6)

『1122(6)』

著者
渡辺 ペコ [著]
出版社
講談社
ジャンル
芸術・生活/コミックス・劇画
ISBN
9784065177570
発売日
2019/11/22
価格
693円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

[特別対談]渡辺ペコ×ふみふみこ 本当は苦しみと違うものを探していた

[文] 新潮社

少女の成長を「恋愛」で描くことが、あまりにもメジャーすぎて(渡辺)


渡辺ペコが不倫を認める30代セックスレス夫婦を描いた『1122(いいふうふ)』(連載中)

ふみ 私、渡辺さんが「ヤングユー」でデビューされたころ「すごい人が出てきた!」って興奮しながら読みました。「依存」とか「掠め取る/取られる」みたいなことを一生懸命に考えたら、「え? おかしくない? 結婚って」みたいに見えてくる部分を描いてくださっているところが、家族の問題に潰されかけていた、というか潰れていた自分にとって憧れだったんだと思う。今回、こういう機会をいただいて『ラウンダバウト』を読み返したりしたんですけど、やっぱりいいなと。子どもたちの話だけど、どこかみんなが独立した感じがするんですよ。女性も男性も独立しようとした結果、変なことになっちゃう、みたいな(笑)。

渡辺 私はずっと少女漫画を読みながら育ったのに、途中で離脱してしまった時期があるんです。少女漫画って少女の成長過程が描かれるものが多いわけですが、高校生くらいの時に「おや? なんだか自分の感覚と違うぞ」ということで。
 少女漫画を読んでいた頃は、漫画の中の「家族とはこういうもの」とか「年頃になったら男女はこういうふうに付き合うもの」というのを漠然と信じていた気がするんですよ。そんなに素直な子でもなかっただろうに、他にあまりにもサンプルがなさすぎて。

ふみ サンプルがない?

渡辺 少女の成長を描くバックグラウンドとして、恋愛があまりにもメジャーすぎて。だから「なんでこんなに恋愛漫画ばかり?」とか「恋愛を通してしか自分というものは見つからないのか?」とか感じ始めて。もちろん、当時はそんなにはっきり意識できたわけではないですけど、女の子ひとりひとりは魅力的でも、男の子が来ると「女の子の役割」を演じ始めてしまうのがどうも残念というか。

ふみ ああ……私はそのファンタジーに縋ってきた部分もありますね。『愛と呪い』の愛子はロマンチックな恋愛というファンタジーを大切に大切にして、本当のどん底ではそれに助けてもらう部分もありました。ただ、今でも少女漫画は大好きですけど、じゃあ恋愛のキラメキをどう思うよと聞かれたら「けっ!」と答えたい気持ちも確かにある(笑)。
『1122』のいちこちゃんは、キラメキを探しているわけではないんですか?

渡辺 キラメキとは違うかもしれませんね。
 もちろん恋愛とか家族とかにまつわる個人のファンタジーを否定したいわけではないんですよ。ただ、恋する二人の世界を私の目を通して描くというのがちょっと苦手で。24、5歳でまた漫画読者に戻り、その数年後にデビューした頃には、自分が「人間と人間」以上に「社会と人間」の関係性に興味があることがなんとなくわかってきて、たとえば恋愛も社会的な産物だと捉え始めたように思います。制度とか、なぜそれがあるのかとか、そこに違和感を持ち始めたのはなぜなのかとか、それを考え始めると個の物語よりは社会の方に描くものが繋がって行くことが多くて。

ふみ 『1122』でいちこが男性を買うというところ、いろいろな議論があるのは承知していますが、私はいちこちゃんが買ってくれてよかったと感じました。「男性が女性を侵す」ことと「女性が男性を侵す」ことを較べれば、どうしたって女性から男性にアクセスする方が難しいですよね。その「いま社会にある非対称」を、「他人の性を買うなんてことに誰が責任を持てるのか」という問題からも逃げずに、『1122』で描いてくださったのが嬉しいです。私が「男の娘」みたいな登場人物を描くことが多いのは、自己分析すればやっぱり「性差をなくしたい」というところに根ざしていて……。
 渡辺さん、漫画に戻ってきたきっかけみたいなものはありますか?

渡辺 大学を卒業してから古本屋さんで働いたりしてたんですけど、そこで青年誌系を読むようになりました。福本伸行さんの『カイジ』とか、古谷実さんの『僕といっしょ』や『ヒミズ』とか……読んでびっくりしたのを覚えています。あとは「FEEL YOUNG」で魚喃キリコさんや南Q太さんにも出会ってびっくりして。絵も文法も自分にとって衝撃で。

ふみ こんなことしていいんだ漫画って! という体験は私にもあります。少女漫画と、あと弟がいるので少年誌をずっと読んできたわけですけど、それだとどうしても“戦うか、恋するか”だけになっちゃうじゃないですか、よい悪いは別にして。だから『寄生獣』(岩明均)を読んでびっくりしました。
 私が高校生の90年代終わりから2000年あたりって、時代的に漫画がサブカルっぽくなりますよね。私にとっての“サブカル”って、世の中の一般的な意味よりだいぶ広いのかもしれなくて、そこには渡辺さんの作品も入るんですけど、ここで「恋愛しなくてもいいんだよ」って初めてヒントをもらったというか。「COMIC CUE」とか「コミックH」とか、まだ漫画業界に余裕があって、すごくいろいろな作品がありましたよね。

渡辺 ド派手じゃないけど豊かというか。私も「コミックH」がとても好きで、衿沢世衣子さんや真鍋昌平さんの作品を楽しみにしていました。

構成:yomyom編集部 写真:広瀬達郎

新潮社 yom yom
vol.59(2019年11月15日配信) 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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