『それでも俺は、妻としたい』
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爆笑鼎談 愛ある暮らし、ダメ夫の誠実 『それでも俺は、妻としたい』刊行記念企画
[文] 新潮社
特殊カップルの奇跡
野木 三年前、映画『百円の恋』が日本アカデミー賞を受賞したでしょう(主演女優賞と脚本賞のW受賞)。私、授賞式の中継見てて思わず拍手しちゃった。テレビの前で。映画学校の男どもは「俺たちの足立がやった!」なんて言ってたけど、私はそんなこと一ミリも考えず、ただただ晃子さんの苦労が報われたと思って泣けました。本当、この特殊カップルが結果を出したのが奇跡だと思う。この人たち絶対ダメだと思ってたもん。
足立 思うよね。俺もダメだと思ってた。今も思ってる。
晃子 私はなんとかなるかもと思ってた。昔、占いで、紳は大器晩成って書いてあったのね。ということは四〇超えたらいけるんじゃないかって(笑)。
足立 ね、この期待。俺がどれだけプレッシャーだったかわかるでしょう。
野木 でもそのプレッシャーがなかったら、たぶん何者にもなってなかったんじゃないですか。
足立 それはある。
晃子 付き合って一年目ぐらいの時、誕生日プレゼントに自分が書いた脚本持ってきたの。
野木 それ、普通に寒いけどね。感動した?
晃子 感動した(笑)。内容は『弱虫日記』みたいな話なんですけど、読んで、超いいと思って。
足立 そういうのを喜ぶタイプだとわかってたから(笑)。今だから言うけど、誕生日のために書いたわけじゃなくて、ずいぶん前に書いたシナリオだったんだよね。誕生日プレゼント買うお金なかったから。それを喜ぶのがアキの良いところであり寒いところ。
晃子 そこからいろんなことを間違えた気がする……イタい女だ。
野木 でもそれで幸せな気持ちでいられるんでしょう。
晃子 そう。ばかは幸せですよ、もう。
野木 足立さんが売れっ子になって女優とかに手を出したら……本当に死んでしまえって思います。
晃子 最近調子に乗ってるんだよね。監督やりだしたから。
野木 (残念そうに)あー。
晃子 二〇二〇年に公開される『喜劇 愛妻物語』が東京国際映画祭のコンペに選ばれて、本当にうれしかった。でも成功すればするほど、むかつくところもあるんです。どんどん調子に乗ってくるから。
野木 だからこそ、ここまでふてぶてしく生きてこれたんだと思う。
足立 調子に乗るって言っても……まあ、確かに忙しくなればなるほどケンカは増えますね。
野木 でも二〇年以上ケンカし続けてもやっていけてるってことは、尊いよ。大事にした方がいいよ、本当。
足立 大事にしてるけどね、俺。
晃子 うそつけ! でも、ありがとうございます(笑)。
***
足立紳(あだち・しん)
1972年鳥取県生まれ。脚本家、作家、映画監督。日本映画学校卒。2012年、シナリオ「百円の恋」が松田優作賞を受賞。同作は2014年に映画化され、日本アカデミー賞の最優秀脚本賞を受賞。2016年『14の夜』で映画監督としてもデビュー。初の小説『乳房に蚊』を自ら映画化した『喜劇 愛妻物語』が2020年に公開予定。この10月には『それでも俺は、妻としたい』(小社刊)を上梓。その他の著書に『弱虫日記』がある。
足立晃子(あだち・あきこ)
1976年東京都生まれ。成城大学映画研究部時代に足立紳と出会う。映画配給会社、某プロレス団体勤務後、2003年に足立紳と結婚。夫と二人の子供との暮らしを経済と精神の両面で支え続ける。『喜劇 愛妻物語』『それでも俺は、妻としたい』のヒロイン・チカのモデル。
野木亜紀子(のぎ・あきこ)
1974年東京都生まれ。脚本家。日本映画学校卒。2010年『さよならロビンソンクルーソー』でフジテレビヤングシナリオ大賞を受賞、デビュー。映画『図書館戦争』、テレビドラマ『重版出来!』『逃げるは恥だが役に立つ』などを手掛ける。2018年、テレビドラマ『アンナチュラル』で芸術選奨文部科学大臣新人賞を、同じく『獣になれない私たち』で向田邦子賞をそれぞれ受賞。2020年1月にはテレビ東京ドラマ24『コタキ兄弟と四苦八苦』が放送される。