中森明夫が昭和~平成の「青春」時代を振り返る自伝的小説集

レビュー

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青い秋

『青い秋』

著者
中森明夫 [著]
出版社
光文社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784334913151
発売日
2019/10/24
価格
1,980円(税込)

書籍情報:openBD

気恥ずかしくてほろ苦い鮮烈な“大人”の自伝的青春小説

[レビュアー] 大森望(翻訳家・評論家)

 新人類ブーム華やかなりし1985年、『卒業 KYON2に向って』という軽装本が出た。中森明夫、野々村文宏、田口賢司の“新人類”トリオが、現代思想からアイドルまでをポストモダンに語りつくす狂騒的な鼎談集。同世代だった僕は、当時この本に絶大な影響を受けて、「ひねたマニア」から「明るいおたく」へのコペルニクス的転回を志した。

 本書は、その鼎談者の一人だった中森明夫が還暦を目前に、昭和~平成の“青春”時代を振り返る自伝的小説集。件の『卒業』がいかにして誕生したかを(背景となる新人類狂騒曲も含めて)語る「新人類の年」など、自伝的な連作8編を収める。

 岡田有希子の飛び降り自殺を題材にした「四谷四丁目交差点」、〈漫画ブリッコ〉に「『おたく』の研究」を連載した前後の事情を(大塚英志との軋轢も含め)小説化した「おたく命名記」、5年前に急死した〈小説すばる〉元編集長との長い交友を描く「文芸編集者」……。遠く近くで見聞きしていた話が、苦みを含んだ青春小説として、新たな光を当てられる(作中では、中森明夫が“中野明夫”になるなど、実在の名前の多くが改変されている)。

 とりわけ印象深いのは、一世を風靡した後藤久美子の『ゴクミ語録』誕生の経緯を題材にした「美少女」に登場する“国江さん”なる怪人物。全共闘世代のエディトリアルデザイナーだが、とにかく若い女の子が好き。彼の悲惨な末路を語ったあと、“私”は、「美少女の下には……中年男の死体が埋まっている」と述懐する。客観的に見て“キモい”このイメージを正面から引き受け、“私”は、後藤久美子と宮沢りえ(作中では野口久美子と宮川えり)に挟まれて記念写真を撮った瞬間が“私の人生の最高の時”だと断言する。個人的にはこの覚悟こそ見習いたいが、そうは思わない人の胸にもたぶん突き刺さる、気恥ずかしくてほろ苦くて鮮烈な“大人”の青春小説だ。

新潮社 週刊新潮
2019年12月26日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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