総合雑誌化を企図した大幅リニューアル 読み応えバツグンの『群像』
[レビュアー] 栗原裕一郎(文芸評論家)
『群像』1月号の編集後記はこう書く。
「総特集は文芸誌『伝統』の新年短篇特集です」
同誌は24人の作家の短篇を載せている。『文學界』と『すばる』も短篇特集を組んでいて、それぞれ6篇、10篇を載せている。
『すばる』の特集は、「すばる文学賞受賞作家短編競作」と銘打たれた好企画ではあるのだが、三つの短篇特集のなかでは一番歯応えがなかった。枚数が少ないのに加え、同誌創刊50周年にちなみ、創刊年である1970年がテーマに課されたことが足を引っ張っているように見える。「主題」というより「お題」になってしまったというか。なかでは大鶴義丹「ハコスカ」が中間小説的ながら、余韻を残しつつも切れの良い短篇に仕上がっていた。
その点『群像』の特集は、主題も枚数も縛りが弱いらしく、各作家、力の籠もった作品を投入した印象で粒が揃っており、読み応えがあった。高村薫「星を送る」、飛浩隆「未の木」、東山彰良「猿を焼く」、阿部和重「Green Haze」、藤野可織「トーチカ」、町屋良平「ほんのこども」を面白く読んだが、なかでも飛作と東山作は出色である。
「文芸誌『伝統』」と言いながら、当の『群像』でも近年例のなかった大規模な短篇特集が組まれたのは、今号で同誌が大幅なリニューアルを行ったからだろう。今後「『文』×『論』をテーマに、総合雑誌化を進めてい」くそうで、ルポ、ノンフィクション、インタビューなどを増やし、「時代の危機」に対峙する場を作る所存だという。その割に、評論、批評に新味が薄いのが気に掛かった。
『新潮』の目玉は、村上龍の新長篇「MISSING 失われているもの」500枚の一挙掲載。作家が自身の内面に潜行していく遍歴譚で、新境地だが、見方によってはデビュー作に回帰したとも取れる。退屈なのは意図的なものか。
その他、金原ひとみ「アンコンシャス」(新潮)、今村夏子「的になった七未」(文學界。芥川賞受賞第1作)、高橋弘希「飼育小屋」(すばる)が、それぞれの作家の個性が良く出た佳篇だった。