『あめつちのうた = SONG OF RAIN AND GROUND』
- 著者
- 朝倉, 宏景, 1984-
- 出版社
- 講談社
- ISBN
- 9784065196878
- 価格
- 1,760円(税込)
書籍情報:openBD
【聞きたい。】朝倉宏景さん 『あめつちのうた』 挫折乗り越え、自分の道へ
[文] 油原聡子
朝倉宏景さん
舞台は、甲子園球場のグラウンド整備を担当する実在の会社「阪神園芸」。主人公の雨宮大地は絶望的な運動神経の持ち主。社会人野球の選手だった父親や高校球児の弟にコンプレックスを抱えながら、阪神園芸でグラウンドキーパーとして働くことになるが…。
著者自身が高校野球の経験者。これまでも野球に関する作品はあったが今回は裏方の仕事を取り上げた。「編集者からの提案でしたが、もともと興味がありました。阪神ファンで甲子園もよく見ています。以前大雨が降ったとき、阪神園芸の方々の整備で、試合開始までに水たまりがない状態になったのをよく覚えています」
阪神園芸の整備は技術の高さから、“神整備”と呼ばれ、人気が高い。執筆にあたり昨年5月のプロ野球シーズンと、8月の高校野球の時期に現地に取材に訪れた。現場のグラウンドキーパーに話を聞き、整備も一通り見学した。「『土が生きている』という言葉が印象的でした。雨を吸うことで、呼吸をしているかのようにグラウンドの状態も刻々と変わっていくんです」
グラウンド作りは高い技術と経験が必要だ。天候を読み、土の状態を見極める。掘り返され、雨を吸い込むことでしなやかで美しいグラウンドになるように、大地も仕事に向き合い、周囲と関わることで弟への嫉妬、親への葛藤を掘り下げ、自分の道を見つけていく。野球をあきらめていた阪神園芸の先輩・長谷や、同性愛者であることを隠す親友・一志らも、もがきながら答えを探す。
「今年は甲子園(の高校野球大会)が開催されず、(球児は)気持ちの整理をつけるのに時間がかかると思う。でも、挫折やピンチ、グラウンドで言うとぐちゃぐちゃな状態でも、晴れたらより一層強くなれる。将来が見通せず不安な若い世代にも読んでほしい」。誰もが人生の主役だと教えてくれるスポーツ青春小説だ。(講談社・1600円+税)
油原聡子
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【プロフィル】朝倉宏景
あさくら・ひろかげ 昭和59年、東京都生まれ。平成24年『白球アフロ』で、第7回小説現代長編新人賞奨励賞。30年に『風が吹いたり、花が散ったり』で島清恋愛文学賞。他に『野球部ひとり』など。